▼リアルタイム最終話
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リアルタイム最終話

登場人物

森本龍:主人公。春から大学生。ロリショタが好きな秀才
里中鈴:春から高一。俺様で自己中。仮面で顔を隠している
黒谷朔:春から中三。女装男子。かっこいい人が好き
如月潤:春から中三。厨二。黒谷のことが好きで一日三回告白する
早峰遊馬:十八歳。おかず屋さんでパートしている主夫
木下恵:十七歳。オタク。ガールズバンドに所属
島崎光:高校三年生。ドМ。サッカー部でキーパーだった




「ほほほ本日はおお日柄もよよく」
「そんなに緊張しないでいいでしょ。それに恵はしゃべらないんでしょ」
「そうなんだけど! もし振られたら!」
「ふらんす語で喋って」

三月。家の面々はそれぞれ新たな一歩を踏み出す準備をしていた。
木下恵は所属するガールズバンドの復帰初回公演を本日夜に控えていた。
コミュ障かつ引きこもりかつニートな木下にとってそれは許容量を上回る緊張だった。
それにリビングで早峰遊馬が付き添っているのだった。

「それもそうか。なにか振られたらフランス語で推しの素晴らしさ語ってこよう」
「それもどうかと思うけれど……本当に大丈夫? 家の外に出て」
「大丈夫じゃないよ今にもおしっこ漏らしそう」
「やめてよ」

早峰は木下が社会に出ることをあまり良しと思っていない。だからこの三年間、部屋に押し込めて暮らさせていた。今までは本人もそれも了承していたし苦ではなさそうだった。しかし。

「でも、ボーカルの子と約束したから。三時にライブハウス前って」
「……そっか」

それももう限界なのかもしれない。
自分の犯した罪は自分で償う時が来たのだと早峰は思っていた。

「あんたたち茶番してるならこっち手伝いなさい!」
「特に早峰力貸してくれー! 本棚が重え!」

すると二階から声。黒谷朔と里中鈴だ。声は聞こえないが森本龍もその部屋にいる。
三人は今、森本の部屋から家具を出し、空いたスペースに黒谷の荷物を移動させているところだった。
森本は今日、家を出ていく。
森本が一人暮らしをしていたころから使っていた家電たちはすでに撤去され、早峰が使っていたものに交換されている。

「本棚? そんなの部屋に入れてたの」
「参考書や赤本を並べるのに必要だろう」
「いいよ今手伝いに行くよ。恵待っててね」
「待て早峰、本棚より本が詰まった段ボールの方が重え!」
「もーいっぱい詰めるから……」

早峰は立ち上がり二階に向かった。
如月は今日は来ない。黒谷の部屋の荷物を入れさせるわけにはいかないし、なにより本人が今朝になって用事があると連絡をよこした。黒谷より如月が優先する用事は家族しかないだろう。如月の家族の話はあまり聞かないが、とても母を大切にしている節がある。家族に何かあったのかもしれない。
しかし別れは既に昨日の段階で済ませてあった。皆でいちごのショートケーキを囲っていつものように騒いだ。しんみりするものは誰もいなかった。日々は過ぎていくものであると皆理解している。
片付けは昼前に終わった。早峰が昼食を作り、皆でそれを食べた。

「昼食をみんなで食べるってなんだか珍しいわね」

最初に口を開いたのは黒谷だった。

「まあなー部活も休んだし早峰も仕事休みだし森本も家にいるし」
「夕飯はいつも一緒だったから今更な気もするけどね」
「……今日の夕飯時には私は東京だ」

森本は無事に第一志望の東京の大学に入学を決めていた。昼食後は親の運転する車に乗ってそのまま東京に向かう。

「ちょっと、なんでしんみりするのよ」
「お前が言い出したんだろ」
「なんかお別れ会も済ませたからなに話せばいいか困るね」
「私は、お前たちに感謝している」
「龍どうしたの変なものでも食べた?」

黒谷が心配そう隣に座る森本をのぞき込むがいつも通り表情から感情を読み取ることはできない。

「あの日、二人に声をかけてルームシェアを初めて、黒谷を迎えに行って、潤くんが転がり込んできて、私は楽しかった」
「まあな」
「それなりにね」
「騒がしくはあったよね」
「だから、お前たちには感謝している。今日までありがとう」

森本は頭を下げた。森本のこんな姿は如月を膝に乗せたいときや撫でたいときにしか見たことない面々は驚く。

「私は今日でここと別れるが、お前たちはまた楽しくやってくれ」
「……なーに言ってんだよ龍! お前も! あっちで楽しむの!」

沈黙を破ったのは里中だった。

「そうよ。東京なんて遊びたい放題よ」
「電車とかで子ども誘拐しないでね」
「(^^♪」
「恵は自重してね」
「それに、なんかあったらまた戻ってくりゃいいかんな!」

里中の言葉に森本ははっとする。

「今まで一年も一緒に暮らしてた家族だぜ? 舐めんなよ」
「そう、だな。そうだった」

森本は笑った。

「行ってくる。また何かあれば、宜しく頼む」
「行ってこい! 定期便で東京銘菓を送れ!」
「行ってらっしゃい」
「気を付けてね」
「コラボカフェ参戦するときは声かけるね!」
「恵」

最後の食卓は、そうして片付けられていった。





「父さん、最後によりたいところがあるんだ」

家を離れた車に乗り込んだ森本は、車を運転する父親に指示を出した。
着いたのは県で一二を争う大きな病院。森本は父に車でしばらく待ってくれるよう頼むと、ほぼ手ぶらで病院に入っていった。
受付にも寄らず、慣れた様子で迷わずたどり着いた個室。念のためノックをしたが、今日も返事はない。
そのまま病室に入る。写真が数枚飾られただけの殺風景なそこの真ん中に鎮座するベットで一人の男が管に繋がれて寝ていた。
島崎光だ。

「まだ起きないのか。もう二週間になるぞ」

島崎は森本たちが観戦するサッカーの試合の途中に倒れ、そのまま意識が戻らないでいた。医者に見せても栄養失調なこと以外は原因不明であり、いつ目覚めてもおかしくないし、目覚め得なくてもおかしくないと言われた。

「……私は今日、ここを出ていくよ」

森本にとって島崎は中学からの唯一の友達であり、守る対象だった。

「六年、六年だ。大学と院と含めて。それだけ経ったら戻ってくる」

眠る島崎にと言うより、自分に言い聞かせるように、森本は語る。

「折角あんなに応援してくれたのに私は鈴に相応しくあれなかった。帰ってきてどうこうするつもりもない。私の失恋だ。だが、林田さんを悲しませるなよ、島崎」

もう迷いはなかった。

「また来る」

森本は病室を後にした。





「もうよかったのかい?」
「いいよ。また会えるから」

父の問いにそう返して、森本を乗せた車は動き出す。

日々は常に更新されている。
その最先端を、人々は生きていく。
たまに振り返ってみてもいい。
そこにはたくさんの過去が遡れるのだから。

リアルタイム 完

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