▼リアルタイム11話
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リアルタイム十一話

登場人物
森本龍:主人公。高校三年生。ロリショタが好きな秀才
里中鈴:中学三年生。俺様で自己中。仮面で顔を隠している
黒谷朔:中学二年生。女装男子。かっこいい人が好き
如月潤:中学二年生。厨二。黒谷のことが好きで一日三回告白する
早峰遊馬:十八歳。おかず屋さんでパートしている主夫
木下恵:十七歳。引きこもりのニート。オタク
島崎光:高校三年生。ドМ。出番がなかなかない





世間が浮ついている二月十四日。
土曜日の今日、黒谷朔は買い物のために朝からスーパーに来ていた。
目的はもちろんチョコレートである。黒谷は男で、甘いものにはあまり興味はないが、同級生の如月潤がこの日に命を懸けているのを知っていた。そのためホワイトデーを待たずにその場で何か既製品でお返しをしてしまおうという算段である。
しかしスーパーに入ってすぐにバレンタインコーナーと目が合ったのだ。きれいにラッピングされた小さな綺麗な粒たちを見、値段を見て速攻であきらめた。
しかしラッピングか、黒谷は考える。裸で渡すのも何か癪だ。せめて袋にいれてあげよう。黒谷は五袋百十円のラッピング袋を手に取った。
問題のお菓子だが、これはもう決めてある。ケーキ生地の周りにチョコレートをコーティングしたひと箱二百円くらいのあれだ。うちには如月のほかに男が三人と里中がいるし、五個あればぴったりである。しかし。

「九個入りで三百五十円の大袋がある……」

黒谷の目についたのは安売りされている大袋だった。
黒谷は考える。もしかしたら林田さんや島崎が遊びに来るかもしれない。そうなれば五個入りでは足りない。余る分にはいいが足りないのは良くない。
それに余ったら……里中に押し付ければいいのではないか。あいつは菓子が好きだ。
黒谷は決め、大袋とラッピングの袋を持ってレジに向かった。
黒谷は気が付いていないが、『家』で最も甘党なのは森本だし、里中は甘いものよりしょっぱいものの方が好きだ。黒谷はそれに気が付かないまま、まだ雪の残る帰路を急いだ。





「……ただいま、って恵だけ?」
「( `―´)ノ」
「それもすぐ部屋に戻るのね」
「バレンタインイベの周回が忙しいからね!」
「しゃべるのかしゃべらないのかどっちかにしなさいよ」

家に帰ると、木下恵の姿しかなかった。
ちゃんとした生活をしていれば恵はさぞかしモテて忙しいだろうに、今日も二次元の女の子に夢中なようだ。しかも本人はあまり気にしていないらしい。

「遊馬は仕事、鈴と潤は鈴の家に行ったよ」
「里中の家に? またなんで」
「知らない」

言うだけいって、木下は階段を登って行ってしまった。
……まあいないならちょうどいい。ラッピングを済ませてしまおう。
黒谷は適当にテレビをつけて、食卓に座った。お菓子を開ける。
テレビではデパートのバレンタイン特設会場の中継が放送されていた。

「うわ、すごい女の人」

リポーターが一組の女性らにインタビューすると、買ったチョコレートはほとんどが自分用だと語った。

「自分用なんだ……てっきり男の子にあげるためかと思ってた……」

黒谷はつい手を止める。

「自分用……自己満……ってことか」

黒谷は手元に残った四個のチョコレート菓子を見る。

「これを自己満用にしても……自分用だしいいわよね」

黒谷は残った四個を手に立ち上がった。





「黒谷さん! ハッピーバレンタインです! 付き合ってください!」
「こんにちは如月くん。ごめんなさい。中はいって」
「残念です! お邪魔します!」
「お前ら飽きねえなあ」

午後三時ごろ、如月と里中が帰宅した。二人とも大きな袋を持っている。

「ところで如月くん、なんで里中なんかの家に行ってたの」
「なんかってなんだよ」
「黒谷さんに手作りのお菓子をプレゼントしたかったのですが、僕の家とここにはオーブンがなかったので仕方なく里中の家に行ってきました」
「仕方なくってなんだよ」
「里中は邪魔でしたがなかなかいいケーキが焼けました! どうぞ!」

如月が袋から出したのは皿の上に半分になったチョコレートケーキだった。ガトーショコラというのだろうか。クリームやフルーツの飾りが少ないが、いかにもおいしそうなケーキだ。既に半分になっているのは多少気になるが。

「……ちなみに里中、あんたが半分食べたなんてことは」
「ねえよ殺されっぞ」

いつもに増して真剣な表情で返す里中の顔には『食べたかった』と書いてある。どうやら違うようだ。すると如月が本当に申し訳なさそうに言う。

「すみません、半分は母にあげようと思って……」
「あっそうだった。ごめんね如月くん疑って。私より家族大切にして」
「いずれ黒谷さんも家族ですから!」
「それはごめんなさい」
「残念です!」

如月からもらったケーキにかかったラップに『黒谷』と書き込む。家のルールで自分の食べ物には名前を書かなければいけない。例外が里中と森本のお菓子コーナーだ。ここにあるものは持ち主の許可なしに手を出すと地獄を見る。
黒谷が名前を書いて冷蔵庫にしまったのを見て如月は満足そうに笑う。そして机の上に置いてある袋を見つけた。

「黒谷さん、これって……」
「ああ、お返し。大したものじゃないけど」

黒谷は五つの袋から一つを取って如月に渡す。中にはチョコレート菓子が一つ。

「あ、ありがとうございます! 家宝にします!」
「腐るわよ食べなさい」

両手で受け取ってわななく如月に、黒谷は安心する。喜んでもらえたようだ。

「……ほら、あんたにも」

黒谷はもう一つの袋をつまみ、里中の方に向けた。

「おっ俺様ももらっていいん! やりーあっこれ美味いやつじゃんあとでくお片付けちゃう」
「黒谷さんこんな奴に義理でもあげなくてもいいんですよ!」
「家の全員分あるし」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「まあ家族みたいなものだしね」

黒谷が迷わず『家』の全員に菓子を用意したのはそれだからである。
友だちとも他人とも言いにくい微妙な距離感が、黒谷の中で家族というもので落ち着いていた。

「……黒谷さんにとっての家族があいつらなんですか」
「まあそう、ね」
「僕と家族になるのは嫌なのに!」
「如月くんのそれは違うでしょ」
「籍を入れたい方ですね」
「だからよ」

里中が自分の棚にお菓子を片付けて戻ってくると珍しくまじめな口調で如月に言う。

「ケーキ、保冷剤少ないから一回家に置いてくれば? うちの冷蔵庫いっぱいだし」
「そう、だな。寒い季節とはいえ暖房の効いた部屋に長く置いておくのは良くない」
「まだはえーし置いてまた来いよ」
「貴様に言われなくてもそうする! では黒谷さん、いったん失礼しますね!」
「え、あ、はーい」

珍しく里中の提案をのんだ如月はあっという間に片付け、部屋から出て行ってしまった。里中がカギをかけるために続く。がしゃんという音の後、里中が一人で帰ってきた。

「あいつと一日お菓子作ってたんだけどさ」

二人きりになるや否や、里中は黒谷に話しかける。
黒谷は、『何かを』意識してしまう。

「……なによ」
「そのガトーショコラ、如月の母さんの得意料理で如月の好物らしいぜ」
「そ、そうなんだ。すごいものくれるわね」
「愛されてんだなーって俺様は思ったよ。んで」

里中は台所の戸を開ける。中から出てくるのはお菓子の入った籠。

「黒谷に愛されてたのは俺様だったってことだ」

そこには同じチョコレート菓子が五つ入っていた。

「そ、それは、あ、余ったから」
「ふーん? 如月にあげれば喜ぶのに?」
「如月くんは付け上がるから」
「じゃあこれ龍にあげようかなーあいつ甘いもん好きだし」
「そ、それはあんたのだから」

里中はわざとらしくにいと笑うとお菓子を黒谷の手の上に乗せる。

「ほら、もう一回チャンスだぜ? 告ってみろよ。お前は誰が好きなんだ?黒谷サンよお」

黒谷は耳まで真っ赤になりながら答える。

「……男のあんたが好きだった!」
「男の、俺様?」
「そうよあんたが男だと思ってたから好きだったの!女の子なんか好きになったことないしどうすればいいかわからないしでもあんたはほんとは女だしでも好きだし……!」

そのまま黒谷はぽろぽろと泣き出してしまった。

「性別なんて関係ねえだろ。お前が一番よくわかってると思ってたけどな」

黒谷は女装癖があるゲイだ。心は男性だし、男の人を好きになる。今まではそうだった。
そんな黒谷にとって里中と言う存在はイレギュラーそのものだった。

「俺様がいいなら俺様にしとけ。幸せにするぜ?」

でも、どんなに前例がなくても、今、黒谷が好きなのはまぎれもなく。

「あんた、なのよ……!」

黒谷は両手を前に突き出す。その上には五つのお菓子。

「幸せにしなさい! それなら私が選んであげないこともないわ」
「相変わらずツンデレですねえ。俺様を選んだこと後悔させるわけねえだろ」

里中が両手を受け取った。





「青春すなあー」

木下は敷きっぱなしの布団に横になりながらつぶやいた。
二階にはすべてが筒抜けなのだった。





島崎:森本―来月暇?

森本:来月とか言うな合否がかかっているんだぞ

島崎:サッカー部でOB戦するんだけど応援しに来てくれないー?オレ森本にサッカーしてるとこ見てもらいたいんだー

森本:まあ……一日ぐらいなら大丈夫だろう

島崎:やったー!オレキーパーだから華麗にゴールを守る姿目に焼き付けてねー!

森本:そこは点を入れるとかではないのか

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