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追いついた頃には、男はビルの屋上に転がされていた。当たり前だが天内も五条サンも無傷の様である。

「こいつ、加茂ちゃんの取り逃し?」
「ウ、はい」
「こんな雑魚1人捕まえられなくてどーすんのよ」

心底呆れた顔をする五条サンに、何も言えないのが悔しい。押し黙る私を見て五条サンは馬鹿にした顔をする。

「何?泣いちゃうの?え?泣いちゃうの?いつもは俺のこと甘ちゃんとか何とかいうくせに、自分がこのくらいで泣いちゃうの?」
「泣きません!」

別に元から1ミリも涙は出なかった。言い返せなかったから黙っただけなのに、何を勘違いしたのか煽ってくる五条サン。涙がひっこむどころか、全部なくなってドライアイになるレベルだ。

「どっ、どうしよう黒井が…!!黒井が!!」
突然天内さんが慌てた様子で携帯を見せてくる。画面の中には気絶し拘束された黒井さんの写真だった。
あの短時間で誘拐されたのか、敵の中にそれなりの手練がいるのかもしない。

「とりあえず、傑と合流しよう」

そう言って夏油さんに電話をかける五条サン。

「どうしよう…どうしよう」
「大丈夫、私たちが何とかします」

私は慌てた様子の天内さんにそう答えるしかない。攻撃する事しかできない自分の術式が嫌になる。
こういう時に夏油さんのような汎用性の高い術式が使えれば、そもそも私がもっと強くて取り逃さなければ…。
頭に様々な思いが駆け巡るが、ここで私が悩んでも仕方がない。安心させる立場の私がクヨクヨしてたら、天内さんはもっと不安になるだけだ。

「絶対に、大丈夫だから」

涙で潤んだ彼女の目を強く見て、そう答えるのだった。
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