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近接の男は殺した。多分、近接が苦手という情報を聞いて寄越されたんだろうが、それはだいぶ前の話だ。最近は赤血操術を利用して甚爾さんから稀に一本取れるくらいには成長したのだ。
炎の呪霊は祓った。結界で空気も閉じ込められているのだろう、薄くなる酸素と灼熱の部屋、さらに貧血。クラクラする頭で腕から流している血とありったけの呪力で部屋自体を凍らせる。
一気に部屋の温度が下がった。なけなしの血液を使った術式はこの状況下で氷山を作るだけの量はあったらしい。
凍って動かない呪霊に向かって穿血を打ち、祓う。あとはここに連れてきた男だけだ。
帳とは結界術だ。そして術式は縛りがキツければキツイほど効力をなす。そこで倒れている近接の男の命が帳の条件の一つだったかも知れない。ぐっと力を入れると帳を壊すことが出来、外に出れた。

酸欠だった体に急に多くの酸素が入り込む。呪力も血液も使い過ぎた、倒れそうになる身体をぐっと堪える。
建物の外には行きと同じ50代の男がいた。額から汗をダラダラと流し、心臓を抑えて苦しそうにしている。
帳のもう一つの条件にこいつの命がかかっていたんだろう、私が帳から出たからこいつの命はもう尽きる。
「たすけ、て……たすけ」
声を聞くのも嫌で、血刃で男の心臓を貫いた。

ドサリと重たい体が落ちる音がした。呪霊の気配はない、でも人の気配がする。ほぼ直感的に血刃を振り下ろした先には、どこか嬉しそうに私の刀を受け止めているお兄さんがいた。

ここから記憶は途切れている。



目を開くと見知らぬ天井だった。いや、違うな、ここは一回来たことがある。周りを見渡すと、椅子に座って指示を出す家入さんとそれに従う斎藤。あ、ここ高専か。それと何故か隣のベッドで寝ている甚爾さん。え?なにこれ。
ふとこちらを見た斎藤と目が合う。斎藤の黒い目が驚きに目を見開かれた。

「え?泣くの?泣いちゃうの?」
「なっーーーきません!」

そう言いつつも涙目になっている。心配をかけたみたいで心がくすぐったい。
こちらに近づき頭を撫でてくる斎藤の手を受け入れながら、ぼんやりと何があったか考える。最後に見たのは確かお兄さんの顔だから、多分高専まで連れてきてくれたんだろうな。ありがたいけど五条悟のいる高専にいて大丈夫なんだろうか。呪力ないから気づかれないし大丈夫なのかも。

家入さんに軽く診断してもらった後、彼女は「寝るわ、あとご自由に」と欠伸しながら部屋を出て行った。前回の病院任務の時もそうだったけど、また家入さんの手を煩わせてしまった。お兄さんの稽古を通して強くなった気でいたけど、まだまだかもなぁ。
それから何があったかを粗方斎藤に伝えると少し考え込む素振りをしながら
「おじさんに任せて」
と言っていた。家から任務が回ってきた以上、本家か分家か分からないけど私を殺したがってる身内がいたんだろう。そういう意味だと所詮高校生の私は立場が弱いし、斎藤に任せるのが一番かもしれない。
傷は全部治してもらったし、呪力切れと貧血は寝てれば治る。現に今もわりかしピンピンしているので斎藤とお兄さんには帰ってもらった。
誰もいなくなった高専の病室はとても静かで、難しいことを考える余裕もなく眠りについた。
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