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うまく行きませんでした。
女性にはごねにごねられ、僕もオッケーするわけにもいかず、じゃあせめて友達から…って伝えたら彼女がいやですなんて泣かれて。最初は良かったと思う。相手の話を否定から入ったり、趣味が合わないから話題ないですなんて流れにしたり、好みのタイプを彼女と全く違うタイプを言ったり、まぁありがちな断り方だったと思うし、女性もそれを感じていたはず。
話がなくなったのでそろそろ切り上げるかと思ったら、女性に腕を掴まれるわ泣かれるわでもう大変。本当に困った。

「僕たち会ったばかりじゃないですか。僕以外にもいい人いますよ」
「ダメなんですぅ…貴方様じゃないと……うぅ」
「…僕のどこがそんなにいいんですか?」

顔か?家事能力か?非術師家系だけど当主様に気に入られてる家柄か?

「…せ、性格……」
「絶対嘘じゃないですか!」

考え込むように一瞬間があってから出た言葉。この短時間のクソな態度見て性格って、絶対に嘘でしょ。
これは女性側も本気の見合いじゃないな、でも家からの強い圧力でもかけられてるのかもしれない。

「貴女も僕とお付き合いする気はないでしょう、僕に断られた事にしていいので、ほんと、そろそろ離してくれませんか」
「ま゛って!!せめてあと1時間はここにいて!」
「は?」

女性の口から出た1時間という単語に、すごく嫌な予感がした。もしかしなくても、今日僕がここに呼ばれたのは足止めなのかもしれない。何の?
頭に浮かんだ女の子。僕のご飯を美味しいと言って食べてくれて、僕と甚爾さんの言い合いを仕方なさそうに止めにきて、僕がいないと生活できなさそうなあの子。
気づいた時には女性の胸ぐらを掴んでいた。

「1時間ってどういう事だ」

しまったという顔をした女性を見て、嫌な予感が当たったことを理解した。


粗方内容を女性から聞き出し、携帯を取り出す。なまえちゃんには、繋がらない。となると

「甚爾さん、なまえちゃんの所に居ますか?」
「いる」
「なまえちゃんは」
「高専で寝てる」

生きてる事実に少し安心するも、僕のせいで何かあったのかと思うと気が気じゃない。今すぐそっちに行くと伝えて通話を終了する。
京都から東京までの新幹線の終電まであと45分。あの女、新幹線に間に合わないようにするつもりだったな。
心が落ち着かない。甚爾さんが着いていて、高専にいるなら問題ないとは思う。でもこの目で見ないと不安で不安でしょうがない。
0時少し過ぎに高専に着き、なまえちゃんがいる部屋に駆けつける。反転術式で治されたのだろうか。目立った外傷はないけど、少し暑そうに彼女は寝ている。

「遅かったな」
「甚爾さん…」

点滴に繋がれているなまえちゃんの脇には甚爾さんがパイプ椅子に腰掛けていた。
こういう時、この人はいつも血の香りがするけど、珍しく今日はしなかった。

「ただの呪力の使いすぎと貧血だってよ。切り傷は少しあったが高専の女が治した。相性が悪い中、呪力と赤血操術、近接でゴリ押したんだと思う。近接苦手だったこいつが生きてるのは俺のおかげだな」

ドッと体の力が抜けるのを感じた。近くにあった机に思わず倒れかかってしまう。余裕そうに笑っている甚爾さんと違ってこっちはあまり人の死に目を見てきていないのだ。亡くなった話を聞く事は多いけど、名前を知ってる人が死ぬ事はそう多くない。それも、なまえちゃんが怪我するなんて殆ど無かったのに。

体の中の息を全て吐き切る。今回こんな目に合わせた奴らはきっと加茂の分家だ。同じ分家で出世していくなまえちゃんが気に食わなかったんだろう。

「甚爾さん、一つ依頼したい事があります」
「あ?」
「今回の件、どの家が仕掛けてきたか検討はついてます。だから」
「くっ、くく、モンペって知ってるか?」
「…貴方もでしょう」

彼女に対して僕が出来ることなど、たかが知れている。だから出来る事はしてあげたい。
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