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ぬるい裏描写があります。
ーーーーーーー
××県○○市に一級呪霊がいる。撃退せよ。

それ以上特に詳しい情報は載っていない資料を斎藤から手渡される。具体的な被害状況はなく、残った余白には手が4つある呪霊のイラストと、具体的な場所、それと決行日時が書いてあった。

「なにこれ?」
「家から渡された任務。なまえちゃん1人だけど、一級一体だし問題ないかなって」
「問題はないと思うけど、情報少なすぎない?」
「まだ被害者は出ていないらしいよ。ウチの窓がそこに呪霊がいるのを見たんだって」
「ふーん?」

何度資料を見ても、それ以上の情報は出てこない。普段だったら、呪霊が生まれたと考えられる要因、能力、被害状況などが事細かく書かれているが、今回はなし。少し引っかかるものはあるけれど、まだ被害が出ていないから仕方ないかもしれない。今後のために芽を潰すのも大切だし。

「それで申し訳ないんだけど、おじさんその日家に呼ばれてて、運転手は別の人が来るんだけど大丈夫?」
「えー…まぁ、大丈夫だけど」

書類に記されてる場所は住宅街を指してあった。田舎、って程ではないけど最寄り駅から車で20分の距離。斎藤がいなくても、車を出してくれるならそれに甘えた方がいい距離だ。

「じゃあ受けてくれるって事でいい?」
「まぁ」

少し前に斎藤用のベットを買った所だ。お兄さんのご飯代も必要だし、閑散期である今任務が来るのはありがたい。任務は殆ど高専に持ってかれるし、高専生と合同任務の時は山分けになってしまうから、1人任務というのは貴重だ。

術式の相性がいいのか、最近はずっと七海さんという高専生と任務だった。私が呪霊を凍らせて、七海さんが弱点を斬る。閑散期故に後進育成をさせようという目論見なんだろう。高専生ではない私は使い勝手がいいらしい。要はあれだ、ポケモンの経験値稼ぎに最初は弱いポケモンで1ターン出した後、本命の高レベルポケモンで敵を倒す的な。安全に経験値だけ稼がせる、そういう魂胆なんだろう。
同い年の七海さんは、やっぱり呪術師らしく変わった人ではあるけどちゃんと資料を読んできたり、指示に従ってくれたりととても真面目でいい人である。

少しきな臭いところはあるけど、美味しい任務であることには違いない。任務を二つ返事で引き受けると斎藤は機嫌よさそうに夕食の準備をし始めた。私と家との板挟みで、断ったら多分面倒だったんだろうな。

「なまえちゃん、甚爾さんが帰ってくるか電話で聞いておいて」
「はーい」

気まぐれに家に来たり来なかったりする甚爾さん。そんな彼にママ(斎藤)は手を焼いているみたいだ。斎藤がいない時は、作り置きしてくれたご飯食べたりコンビニ行ったりしてるので、余りお兄さんのご飯を気にしてないけど、斎藤がご飯を作るときはお兄さんの分まで作ってる。なんだかんだ言ってはいるけど、結構仲は良さそう。

携帯でお兄さんさんに電話をかける。何秒かすると電話に出たがどうも様子がおかしい。うっすらと聞こえる女性の声や水音、お兄さんもどこか息切れしているかのような声。

「お兄さん今日はこっち来ます?」
「んー、気分に、よる」
「斎藤が可哀想ですよ」
「あ?知らねぇよ」
「じゃあ今日は夕食なしでいいですね」
「…待って」

さっさと話を切り上げて電話を切りたいのに、お兄さんによって止められる。聞こえてくる水音と女性の声が一層大きくなった、お兄さんも黙り込んだので携帯を耳元から離す。少しして水音と女性の声が収まると、今度はお兄さんの息の音だけが聞こえてきた。
うわ、嘘でしょ。

「あの、人を興奮材料にするのやめて欲しいんですけど」
「…はっ、オマエに手を出してねぇだけいーだろ」
「そろそろ家追い出しますよ」
「今からそっち行くからメシ用意するよう言っとけ」

女性の抗議の声と共にぶつりと切れた電話。お、横暴だ…。お兄さんの夜事情は知りたくもないが、たまに電話をかけるとこういう事があるから困る。自分でもヒモだと言っていたし、そういう女性が多いのは構わないし、なんなら電話で聞かれているというのが興奮材料になるのはいい、それはいいんだけど。
頼むから私との電話中にはしないで欲しい。こちとらまだ華の高校一年生だぞ。JK1だぞ。
最中にかけちゃったこっちも悪いけど、だったら電話に出ないで欲しい。
今まで音で「あっこれ今…」みたいな事は何度かあったが今回は流石に頂けない。ママ(斎藤)にチクってやる。

「お兄さん夜ご飯いるって、それとーーー」

1時間後に家に帰ってきたお兄さんは、斎藤にめちゃめちゃ怒られてた。それはもう、すごいくらいに怒られてた。お兄さんが冷や汗流しながら正座してるところとか初めて見たし、謝ってるところも初めて見た。
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