28


「憲紀はどうだ?」
「当主様!」

目的だった次期当主様との顔合わせも終わり、さっさと東京へ帰宅しようと思っていた。斎藤とは別行動だったが、私と一緒に東京へ帰宅するので与えられた部屋で待っていると、当主様が部屋に入ってきた。必然的にこの人と2人きりになる。
当主様と2人になんてなった事なかったから緊張する。いつも付き添いの女の人や、加茂家にいた時は私の面倒役がいた。しかし、珍しく誰もつれてない当主様は、私の向かいにどかっと腰を下ろした。

「憲紀様は…、とても純粋な可愛らしい方ですね」
「そうか」

当主様は憲紀様に似ている目を嬉しそうに細めた。こんな慈しむような顔、初めて見たかもしれない。

「知っているかもしれないが、憲紀は妾の子なんだ」
「え?」

突然落とされた爆弾。妾って、つまり奥さん以外の人って事だよね?愛人との子供って意味だよね?
あまり加茂家の細かい事情に興味がなかった為か、普通に寝耳に水である。驚いて固まっていると、当主様は私が初耳なことに気づいたのか、薄く笑いながら口を開いた。

「妻との子は術式を引いた男の子を産めなくてね。一方妾との子は術式を受け継いだ。だから、憲紀を引き取った。表向きは嫡流としているけどね」

憲紀様と会った時を思い出す。彼がどこかぎこちない顔をしていたのは、単に緊張していたからじゃない。突然変わった家庭環境への戸惑いがあったんだろう。
術式を引いた子供を産んだ母親は今はきっと…、いや、私には関係ない事だ。この家がどんなに術式や血筋に囚われているのか私が身をもって知っている。他人にまで意識を向けることは出来ない。

「憲紀と仲良くなれたみたいだし、次帰ってきた時は術式を見てやってくれ」
「かしこまりました」

言いたいことだけ言い終えると当主様は部屋から出て行った。2人きりの緊張時間から解放される。
最後、あの言葉。当主様からしたら妾の子だろうと自分の血と術式を引いた大事な子なんだろう。優しそうな顔、少し心配するような声色、それらは全て憲紀様に向けられていた。
もし、私が本家産まれだったら。もし、私が男だったらーーー。
家にいるとどうやら湿っぽい考えになってしまう。襖の向こうにいるいつもの気配を感じて気持ちを切り替える。家に帰ったら、美味しいご飯を食べよう。お兄さんは今日居るのかな。1日家空けたけど、ちゃんとご飯は食べたかな。それと、今日斎藤は泊まっていくだろうか。お兄さんと斎藤がダブルブッキングした場合、普段は2人とも客室を使っているからどちらかソファで寝なければならない。まぁいつも斎藤がソファなんだけど、そろそろ可哀想だからなんとかベッド買ってあげないと。

「お待たせしました、なまえ様」
「おそーい。早く帰ろ」
「はい。甚爾様が家を好き勝手しているかもしれません」
「それは大変だ、お土産を持って帰らないとね」
「茶の菓は買ってありますよ。明日のおやつに皆で頂きましょう」
「やった!」
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