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約束の時間ちょうどぴったしに車はついた。
斎藤の小言から逃げるように車から出る。

「なまえ!」

こちらを呼ぶ理子ちゃんの声が聞こえて振り向くと、黒いスカートをはいた理子ちゃんと、メイド服ではなく動きやすそうなパンツスタイルの黒井さんがいた。

「え、なまえ可愛いな!」
「いつも黒色の服ばかりですから、珍しいですね。お似合いです」
「ありがとうございます!理子ちゃんも黒井さんも可愛いです!」

理子ちゃんは洋服はモノトーンで落ち着いているのに、赤で揃えられたバンダナや鞄、靴がとってもおしゃれだ。一方黒井さんは清潔感のあるシャツにスキニーパンツですごく足が長く見える。髪の毛を下ろしているのもいつもと雰囲気が違くてとても素敵だ。

3人で話しながら街を移動する。目的のケーキ屋さんは駅からすぐ近くにあった。
私はショートケーキとアッサム、理子ちゃんはモンブランとカフェラテ、黒井さんはロールケーキとレギュラーコーヒー。
目的のケーキが来て3人で写真撮って食べる。甘すぎないクリームはとても美味しい。

「そういえば、なまえ様を送っていたあの方は?」
「彼は加茂家の従者です。今は私の面倒を見てくれていて」
「加茂家の…。同じ従者として気になりますね…」

星漿体の従者として過ごしてきた黒井さんと、加茂家に仕える斎藤。二人を思い浮かべると、雰囲気とかが少し似ている気がした。でも斎藤よりは黒井さんのが強いだろうな…。

「なまえは今一人暮らしなのか?」
「うーん、半分はそうなのかな。斎藤と、あとあの…任務の時にいた黒い人がたまに泊まりにくるから、完全にそうとは言えないかも」
「え、あの黒い人泊まりに来るのか!?」
「本人曰くプロのヒモ、らしいよ」

驚いたのか二人が少し目を見開いてぽかんとしている。表情が殆ど同じで少し笑ってしまう。

「プロの、ヒモ……なまえ様、その人家から追い出した方がよろしいのでは?」
「なんなら妾たちも手伝うぞ…」
「害はないから大丈夫」

稽古つけてもらってる件もあるし、家を貸し出しているのは実質場所代みたいなものだ。家事はちょっと増えるけど、ありがたいことに8割くらい斎藤がやってくれてるので余り生活は変わらない。

「そういえば、理子ちゃん達外出許されたんだね」
「そうなのじゃー!!」
「繁忙期で呪術師様が忙しくて、護衛が付けれないのが理由だと思いますけどね。でも、天元様も安定していますし、話自体が大分落ち着いてきたのも理由の一つかと思います」
「なるほど」

納得してケーキを一口食べる、いちごの酸味とクリームの甘味が美味しい。ケーキから理子ちゃんに視線を移すと、何処か少し暗い表情をしていた。

「どうしたの?」
「あ、うん…。妾が同化を拒んだから、他の誰かが犠牲になったのかな、って」

天元様の同化を拒否した理子ちゃんは適合者から外れた。しかし、どのタイミングで出来たかは知らないが他に適合者が現れ、その人が同化することによって天元様は現在安定している。
なんで返すのが正解だろうか。一瞬の沈黙が場を支配する。

「あ、や!暗い雰囲気にして悪かった!ここのケーキは美味しいな!」

そう言って残りのモンブランを食べる理子ちゃん。少し慌てて食べたからか、口元に少しクリームが付いている。

「次の星漿体がどんな人かは分からないけど、理子ちゃんが同化を拒んだことにより適合者から外れたんだから、本人も納得しての同化だと思うよ。……私たちは、その人がくれた平穏を過ごすのが一番、じゃないかな」

同化が極秘に行われた以上、星漿体が何を思っているかは分からないけど、その人のおかげで今こうしてケーキを食べているのだ。何もできない以上、幸せに暮らすのが残された側の勤め、なのだろう。

「そっか…ありがとう」

話に区切りがついたし、理子ちゃんの口元についていたクリームを指ですくい食べる。うん、栗の味がしっかりしてて美味しい。

「あ、う、なまえ……」
「?」
「なまえ様…、あまり理子様を揶揄わないで下さい」
「ひ、人たらしめが…!」

真っ赤になって口をパクパクさせてる理子ちゃんと呆れ顔の黒井さん。
女の子同士だし気にしてなかったけど、距離感近すぎたかもしれない。慌てて謝るとそっぽ向きながら嫌じゃないと小声で答える理子ちゃんはとても可愛らしかった。
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