19
そのまま帰宅するつもりだったが、そこそこの怪我という事で高専の反転術式が使える人の所まで連れて行かれた。
私自身も反転術式はちょっっっっっと、齧る程度には使えるが、治癒する事は出来ない。せいぜい自分の氷を溶かす程度だ。
「ども、家入硝子です」
「加茂なまえです」
高専に着くと、黒髪ボブの女生徒が迎えてくれた。今高専にいて反転術式を使えるのは彼女しかいないらしい。
夜分遅くにすみませんと伝えると
「や、夜型なんで」
という返事をいただいた。
補助監督さんと一言二言話すと、重症だった夏油さんから治しに行った。
タメ口で会話する彼女たちは仲が良さそうだ。いつか話してた同級生の女の子とは、家入さんの事を指すのだろう。さっさと夏油さんを治すと、彼は挨拶をして部屋を出て行った。
「じゃ、やるね」
そういって今度は私に反転術式をかけてくれた。
「これ夏油にやられたんだって?」
「…はい」
「年下の女の子に容赦無さすぎでしょ」
そう言って何でもないようにケラケラ笑う家入さん。
楽しそうな口調に反して手つきはとても丁寧だ。優しい手つきに欠伸が出る。
「眠い?高専に泊まってったら?深夜任務だし、疲れたでしょ」
「いいんですか?」
「いーよいーよ、そのための部屋もあるみたいだし。ん、おわり」
ぽん、と頭に手が置かれる。私の髪の毛を軽くかき混ぜるように手が動く。
「悪いけど私貧弱だからベッドまで運べないよ」
「自分でいけます…!」
家入さんにざっくりと高専寮内を案内してもらう。浴槽は生徒数と比べてかなり広い。急に呪術師が泊まることもあるのだろう。アメニティ完備だし、客室もかなり綺麗だ。
もう夜を超えて朝になろうとしてる。思わず欠伸が出ると家入さんも釣られたのか欠伸をしていて、二人で顔見合わせて笑った。
「朝ごはんはさっき案内した学食、7時から8時半までね」
「はい」
「じゃおやすみ」
「おやすみなさい」
挨拶をして家入さんと別れる。任務で生徒がいたりいなかったりするので、一人増えるくらいなら朝ごはん食べて行っても問題ないらしい。手厚い。
眠たさを我慢してお風呂に入り、濡れた髪もそのままにお布団に入る。眠気に抵抗することもなく瞼を閉じると意識が遠のく。
あ、斎藤に連絡入れてないや。