15


久々の休日、な気がする。
先々週まで理子ちゃんの一件でバタバタだったし、そのあとは学校だ。ほぼ一週間丸々休んでしまった為、サボるわけにはいかない。
友達には心配かけたなぁ
家からの圧力か呪術界からの圧力か、任務での欠席は単位に響かないと斎藤から聞いている。だからと言って学業は大事だし、何より友達がいるのだ、極力休みたくない。
体が弱くて病院行ってて、なんて嘘をついてた為、一週間も休んで心配かけたらしい。任務中は必要最低限の連絡しか返してなかったから余計に。
任務達成してそのまま学校行って、二週間フルで働いたようなものだ。久々の1日休み!久々の何もない日!二度寝し放題!

一瞬浮上した意識をまた手放した。



人の気配がする。懐かしいな、この感じ。
寝てるときに突然隣からする気配。斎藤は勝手に自室に入ってこないし、絶対にお兄さんだ。
一瞬目を開けようと思ったが、眠気には抗えない。
リビング好きに使っていいし、客室の布団好きにしていいから寝させてほしい。おやすみなさい。

「このまま俺に殺されるか、一生俺といるか、稽古するか、選べ」

胸ぐらを掴まれてぐっと体を起こされる。お気に入りのルームウェアが少し伸びてしまう、突然起こされて少しびっくりしながらも、布団に手をつくと、胸ぐら掴んでいたお兄さんの手が離れた。
なんとか目を開けると、私の腰あたりに跨るお兄さん。ただでさえ寝てる乙女の部屋に入ってくるのは重罪なのに、セクハラなのでは…?いくら兄妹みたいな関係とはいえ、普通にこれはセクハラでは…?

「聞いてんのか」
「え、あ、すみません、聞いてなかったです」

寝起きによく分からない質問してくる方が悪い。なんだっけ、なんか選べ、って言ってたのは覚えてる。
っち、と舌打ちをしたお兄さんは、めんどくさそうに口を開いた。

「俺に殺されるか、一生俺といるか、稽古するか、選べ」
「…へ?」

聞いたところですぐには理解できなかった。殺されるか、お兄さんといるか、稽古するか…?何その三択。
ただでさえ動きの鈍い頭が、よくわからない質問のおかげで更に働きが鈍くなる。

「オマエ、この間俺に負けたろ」
「う、ハイ」
「このままだとそのうち死ぬぞ」

星漿体護衛任務の際に、私の実力が見たいなんて理由で襲撃してきたお兄さん。結果はお兄さんのボロ勝ち。私なんかじゃ手も足も出なかったのが事実。

「レアな術式頼りで近接が弱すぎる。赤血操術はどの距離感でも対応できるし、オマエの場合は呪力量も多い。中距離遠距離は問題ないが、近接はザコ。血刃の強みも活かせてねぇし、近接の間合いに入れてから攻撃までが遅い」

弱い、ザコ、遅い
言葉のナイフがグサグサと刺さる。呪術関係でされたことなかったダメ出しに、意外と悔しさが勝る。
呪術なんて家から言われてやってるだけなのに、呪術しかなかった私の人生を否定されたようで一応存在していたプライドにヒビが入った。

「で?」
「稽古、つけてください」
「よろしい」

なけなしのプライドにかけて稽古を選んだ自分を責めたい。何十回何百回と地面に転がされ、もうボロボロだ。休日にも関わらず、山に連行され強制的に鍛錬が始まった。山って、山って。しかも登山とかそういうのじゃない、マジのやつ。

ルームウェアのまま連行されそうになったのを必死に引き止めて、せめてと着替えてきて大正解だった。かわいいルームウェアが泥だらけになるのは悲しすぎる。

「攻撃を躊躇うなって言ってんだろ。躊躇った瞬間殺される」
お兄さんはそういうが、あまり躊躇ってるつもりはないので困る。痛む体を起こして、血刃を握り直して、今度こそ一本取る。

そう思ってた時が私にもありました。

結局一本も取れず、辺りが暗くなってきたので中断した。体はボロボロ、刀を使ってこなかったから切り傷はないにしても打撲跡がいくつか、メンタルもボロボロである。
それなりに強いと思ってたけど、全然そんなこと無く、私は天狗になっていたようだ。五条悟と五条悟に勝ったお兄さん、別世界の強さなのは理解してたがここまで手も足も出ないとは…。
一本取ってやるなんて意気込んでた時とは打って変わって、血刃使って傷一つ付けられ無かった。
帰りの山道を下りながら、悔しさを隠すように手をグッと握った。

「オマエ、人殺したことないだろ」
「え?」

前を歩く黒い背中から突然かけられた言葉。人を殺した事があるか。
答えは「ない」だ。任務で呪詛師と当たることはあれど、今まで殺した事はなかった、というかその必要がなかった。殺さずとも凍らせれば問題なく任務が終わったのだから。

「道徳教育の賜物だな」

心底嫌そうに吐き捨てたお兄さんは、こちらを振り返り私の手を掴む。掴んだその手をお兄さんの心臓のある位置まで持ってくる。

「穿血使えよ。呪霊と違って人間はここを潰せば一発だ」

お兄さんは何を考えているのだろうか。真っ黒な瞳からは何も読み取る事ができない。思わず手を引こうとしたが、強い力で握られて叶わなかった。彼にに触れている手の平からドクドクと心音を感じる。
穿血、って。今使ったら確実にお兄さんの心臓に当たる。そしたら、お兄さんは死んでしまうのだろうか。殺しても死ななそうな人だけど、それでも彼は確かに人間で、心臓に穴を開けたら死んでしまう。

ビシリ、とおでこにそこそこの衝撃が加わる。
デコピンされた。それと同時に拘束されてた私の手は解放された為、痛みを和らげるためにデコピンされたおでこに手を持っていき、さする。
あ、穴が空いたかと思った…!

「不足の事態が起こったときに考え込むのも良くねぇな」

お兄さんはさっきまでの嫌そうな顔はなんだったのか、カラカラと楽しそうに笑っていた。

「飯だ飯。天元の任務報酬入っただろ、奢れよ。焼肉な」
「誰かさんの邪魔のおかげで報酬はチャラです。そして高校生に集って恥ずかしくないんですか」
「恥ずかしくない」
「…はい」

焼肉行くのも私の奢りも構わないけど、とにかくお風呂と着替えを済ませてからにして欲しい。
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