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東京よりも沖縄の方が呪詛人(じゅそんちゅ)の数は少ない
なんて理由により滞在期間は一日伸びた沖縄旅行。や、本当の理由はフライト中に賞金期限切れた方がいい、だけど。

そんなわけでまだまだ続く沖縄旅行。高専に戻らない為緊張を和らげるわけにはいかないが、それとは別に旅行は嬉しい。
うどん食べたり美ら海水族館行ったり、通常の旅行とほぼ遜色ないスケジュールで沖縄を満喫して急遽取った旅館へ。
こんな状況なので襖で区切るタイプの大きい部屋を一つ借り、女子側は黒井さん天内さん私の川の字で寝ることになった。男子部屋になる襖の向こうは知らん。天内さんにより緊急時以外不可侵条約が結ばれた為である。

「温泉じゃ!」
ウキウキした声で駆けていく天内さん。グイグイと黒井さんの腕を引き、黒井さんも仕方ないなという表情で楽しそうである。こう見たら星漿体だなんて思えない、普通の女の子だ。

絆されてしまったな、と思う。昨日夏油さんや五条さんと合流したタイミングで天内さんが同化を拒んだら、という話をした。
同化はなしという方向で話が固まっていく2人に対し、私は1人断固拒否派だった。そりゃそうだ、星漿体1人の犠牲で今後何人もの人が死ぬかもしれない。結界が弱まるだけでも被害なんて計り知れないのに、万一天元様が敵についたら、そう話す私に2人は
「大人の言うことには従え、ガキは難しく考えるな」
「ふふ、私達なら問題ないさ。それに責任は私達に来る、なまえは安心していい」
なんて流されてしまった。

星漿体としてしか見ないように、こうやって絆されないように、自分1人でも星漿体と天元様を同化させるように、なんてそういう意味でも気を引き締めていたのになぁ。

「なまえも!何ぼさっとしておる!行くぞ!」

黒井さんの腕を引っ張っていた天内さんは、一瞬目を話した隙に私のすぐ隣にまで来て、今度は私の腕を引っ張った。キラキラとした楽しそうな瞳に毒気が全部抜かれてしまう。護衛失格。
本当に、絆されてしまった。


今日一日、黒井さんと私は天内さんとずっと一緒である。勿論男性陣2人も一緒だが、どうしても性別的限界が産まれる。お風呂も部屋で済ませるか?って話が上がったが、私が一緒に行動できるために温泉を使用することになった。今度こそ絶対に天内さんから目を離さないように、湯船に浸かる。
18時半過ぎ、ちょうど日没時間の露天風呂は混んでいるかと思ったが、平日ど真ん中というのもあり私たち以外には誰もいなかった。もしかしたら高専の力が働いているのかも知れない。
オレンジの日の光が海に差し込み、静かに揺れている。
「きれい…」
そう声を漏らしたのは誰だったか、天内さんかはたまた私だったかも知れない。

日が沈むのを待つより、こっちが上せるのが早かった。黒井さんはまだ入れそうだったが、護衛がある為3人同時に上がる。すみません、氷使いなもので長湯は苦手なんです。
手早く自分の準備を終えた黒井さんは、着替え終わっている天内さんの髪の毛をとかしている。私も手伝う気でいたが、本職の方には負けてしまった。
「ありがとう、なまえ」
椅子に座ってされるがままだった天内さんは、少し気恥ずかしそうにそう言った。突然の言葉に思わず黙ってしまう。天内さんの顔がぽぽぽとさらに色づいた。
「こちらこそありがとう。…その、理子ちゃんって呼んでもいい、ですか?」
折角、と思いこの数時間考えていた事を告げる。
一線を引くために年下だろうと崩さなかった呼び方と敬語。しかし私の中ではその一線はかなり薄いものとなってしまった。だったら越えて、出来るのなら友達になりたい。
そう思い告げた言葉に天内さんはバッとこっちを見て
「勿論じゃ!」
「良かったですね」
天内さん、もとい理子ちゃんは笑顔で答えてくれた。黒井さんの微笑ましそうな声色に、保護者の前で友達宣言した気恥ずかしさが急に襲ってくる。
本当は今すぐ脱衣所を出て1人になりたいが、そうはいかないのが護衛のお仕事。恥ずかしい気持ちを噛み殺すのに必死だった。


「お風呂ありがとうございました」
浴衣に着替えて暖簾をくぐると、男性陣が待機していた。お風呂は何も持っていけないから、と言う事で保険として待機してもらった。
「ちょうど日没時間と被ってて綺麗でしたよ、ね、理子ちゃん」
「うむ!今から急げば間に合うかも知れんぞ!」
見事絆されましたよ、そんなアピールの為にあえて2人の前で理子ちゃんの名前を呼ぶ。一瞬呆気に取られた2人だったがニンマリと笑顔になる。
「どうやら温泉で仲良くなったみたいで、お兄ちゃん達は嬉しいよ」
「仲良くなれてよかったね」
急に保護者面して言ってくる2人になんだか恥ずかしくなる。そんな反応されたらまるで私がお友達できたよと報告してるみたいじゃないか。夏油さんに至ってはぽんぽんと頭を撫でてきて、悔しい…!
「一つしか違わないのに!ほ、保護者面しないでください!行くよ、理子ちゃん!黒井さん!」
「うむ!」
「はい!」
行きとは逆に、私が理子ちゃんたちの腕を引きながらその場を去る。悔しい、何よりあの性悪達に私が悩んでいたのがバレてたのが悔しい…!


「無事友達になれたみたいだね」
「な。本人は隠し通せてるつもりなんだろうけど、グダグダ考えてるのバレバレだっての」
「言ってあげるなよ。そのおかげで面白いものが見れたんだから」
察しのいい自称お兄ちゃん達は、海水浴あたりからなまえが悩んでいる事に気づいていた。
事前の打ち合わせで彼女が任務に対して真面目なのは十二分に伝わっており、それ故に情を移さないようにと天内さん呼びと敬語で防衛ラインを張っていた。
しかし傍目から見たらそんな防衛ラインは紙切れよりもペラペラで楽しそうに過ごしているので、あっ、思ったよりも簡単に情が移ったなと思ったのである。ちょろいと思われてる女、なまえ。しかし事実である。
最初から絆されないよう、仕事を完遂できるよう、としていたなまえの仮面が外れた瞬間、性悪2人にとっては最高のオモチャになったのだった。
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