怨みと惑いの視線が交錯する。
全くついていけない私の口からは、湧き出す疑問が溢れる。
「な、なんで貴女がここに――うわっ!?」
「っまた……、また、天女かっ! いい加減にしろ! さっさと帰れ! さもなくば、死ね!!」
少女の返事が来る前に、忍装束に身を包んだ少年が吼えながら私に向けて鋭い蹴りを放つ。威嚇ではない、本気で殺意の籠ったそれを必死に紙一重で交わしながら声をかける。
「ちょ、ちょっと待って、『平成』っていうのは争いもないえらく平穏な時代なんじゃなかったんですか!?」
「避けるなバカタレッ!」
「避けますよ!」
恐ろしい手数で繰り出される体術からの、唐突な一閃。少年の手には忍刀。真っ直ぐ喉元を狙うその刃を無理矢理身体を捻って直撃からは免れる。が、薄くとも肉の持っていかれる感覚が追ってきた。時期に、痛みだすぞ、これは……!
そんな攻防を繰り返す私達とは離れたところに立ち尽くしていた少女が、吼えた。
「なんで―――なんでなんでなんでまたアンタがいるのよぉ!! ヒロインはわたし! わたしなの!!」
最早咆哮と言っていいそれに、森が震える。
さすがの少年も虚を付かれたようで、その動きを止めた。私と並び、少女を窺う。
彼女はわなわなと震えながらも、少年が抜き放ち地面へ捨てた忍刀の鞘を拾い上げる。
一歩、また一歩と、非常にゆっくりと、こちらへ向かい出した。
「あ、あの、お嬢さ、」
「ふざけるのもいい加減にして、わたしは、わたしが、ヒロインなんだから、わたしが――ああああああああ!!」
「ひっ……!?」
正に、がむしゃら。
奇声を上げる少女は私目掛けて突進。掲げた鞘を、渾身の力で脳天目掛けて振り下ろす――!
――だけど、私だって、むざむざ受けてやるわけにはいかない!
「……な、」
左腕を振り抜いて、鞘をへし折った。
衝撃に体勢を崩す少女。勢いのまま、空いた右腕を突き出す。私の手は彼女の頭を引っ掴む。決して、離さない。少女は目を見開く。私は手を離さない。離さないまま、地面へ――叩きつける!
どぐしゃあ!
と――無残な音を響かせて、もつれ合いながらぶっ倒れる。
私に潰される形となった彼女は、沈黙している。
後頭部を強打、とかいう次元じゃない状態だもんで完全に意識を失っている。
しかし呼吸もしてるし心音もするし。とりあえず死んでないようだった。
一息、つく。
「お、お前、」
なんと言っていいやら。そんな雰囲気に溢れた少年が、とりあえず声をかけてはくれるが。
「……い゛、ッ〜〜〜〜!!!!」
返事をしようにも、今の私にはのた打ち回るしか出来ないのであった。
無理矢理振り抜いて盾にした左腕は、完全にポッキリ。
一息ついた瞬間に襲い来る痛みに苦しむうちに、どっと押し寄せた疲労やら何やらも伸し掛かり――、
うっかり、そのまま気絶するはめになったのだった。
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