ジグノイド・ワールドエンド



 目を覚ました時、視界いっぱいに2人の少年が写っていた。

「お目覚めですか?」
「痛みはどうですか?」

 私は基本的に寝起きに弱い。ああ、二人いるなあ、と辛うじて考えられる程度にしか頭が働いていないくらいには。
 私を覗き込んでいた年嵩の少年の方が、もう一度私へ呼びかける。

「おはようございます、聞こえてますか?」
「……おはようございま、す……、今日、朝餉…なんでしたっけ……」
「朝餉ですか?」

 きょとんとした顔をした年若い方の少年が、小さく笑う。

「今日はおばちゃん特製のだし巻き玉子がありましたよ」
「だし巻き玉子……だし巻き…玉子……? うちの食堂で、そんな繊細なものが出るはず………………えっ!? 誰!? なになになにもしかしてあなたが噂の多串くん!?」
「えええ」
「ええと、僕達は多串さんとやらではないんですよ」
「でしょうね」
「えっ切り替えが早い!」
「申し訳ない、寝起きなもので」

 言い訳になっているんだかなっていないんだか、いまいちよく分からないことを嘯きながら、私はなんとか頭を覚醒させて身体を起こす。適当に口を動かしているだけでも目は覚めるものだなあ、なんて思いながら現状を把握していく。
 最近の病院では嗅ぐことの減った、薬草や生薬の香り。寝かされている布団は思った以上に上等で、清潔なものだ。なんとか悲鳴は飲み込んだが、いつ呻いてもおかしくない程に痛む左腕。丁寧に添え木の巻かれたその腕が、隊服ではない着物から伸びている。
 そして、起き上がる時に介助をしてくれた少年達は、ザ・ニンジャと言わんばかりの色違いの忍装束に身を包んでいる。よりによって年嵩の少年は、昨日全力で殺しにかかってきた少年と同じ色だ。

(これは一体どういう状況なんだ……?)

 明らかに昨日の彼の身内だろう二人組に、懇切丁寧に介抱されているといった状況だけど、正直なところ彼らに助けられる意味が分からない。
 寧ろ、あの時ぶっ倒れた私へはこれ幸いと刀をぶっ刺すのが忍びのセオリーというものじゃないのか。彼らにとって、私を生かすメリットってなんだ……?
 ううむ、と眉根を寄せて考え込む私に苦笑する2人。

「まあ、色々混乱されているかとは思うんですが――まずは、腹拵えからにしませんか」

 そう言って、ゆるゆると湯気立ち上る小鍋が軽く持ち上げられた。
 瞬間、私の腹の虫が盛大に鳴いたことは3人だけの秘密だ。



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