俯瞰撮影


「え、待って、お前、俺のこと何だと思ってんの? 求職中の善良な青少年だとでも思ってんの?」
「善良な青少年は普通、初対面でナイフ持って襲ってこないよ」
「だろ? そうだろ普通? 俺ちゃんと名乗ったよな? 俺、一応零崎人識って名前なんだけど知ってる?」
「知ってる知ってる」
「じゃあ普通持ってくる依頼ったらそういうのだろ!?」
「へえ、ぼくが普通の依頼を持ってくると思ってたのか。凄い感性だ」
「なんだこいつぶっ殺してえ」

 涼しい顔で、ずずず、と音を立てながらジュースを飲む欠陥製品に、ナイフ代わりにポテトを一本投げつける。食べ物で遊んじゃダメですよう、なんて間の抜けた注意が飛んでくるが、無視だ。無視。
 というか、表情が変わらなさすぎて、全く本気で言っているように思えない。
 けど、こんな趣味の悪い冗談のためにわざわざテキサスまで足を向けるほどの狂人でもないーーはずだ。

 ーーなら。こいつは本気で『殺しでないお仕事』を俺に持ってきたわけだ。

「………………内容は」
「ちょっとした潜入捜査なんだけど」
「却下だ」
「早いね」
「早いさ」

 秒速で却下だ。

「潜入捜査だあ? ターゲットを壊滅させろって話なら分からんでもないが、俺に潜入捜査なんかさせたら一瞬で壊滅だぜ?」
「そこはほら、持ち前の社交性で」
「社交性云々じゃねえだろ、最早」
「なんとかなるよ、多分。きっと。恐らくだけど」
「あやふやすぎんぞ!」

 俺のテンションには一切付き合わず、欠陥製品は鞄からごそごそと資料を引っ張り出してきた。封筒はそこそこの厚みを持っていて、結構な枚数の書類が入っているらしい。

「2人に行ってきてほしいのは並盛中学校っていうんだけど」
「待て待て待て」

 もう突っ込みどころしかない。相変わらずの表情でこてんと首を傾げやがったが、可愛くねえぞ! いい年だろお互い!

「まずなんだ、……とりあえず俺は受けるなんて言ってねえ」
「そうだね」
「つーか2人って。伊織ちゃんまで使う気かよ」
「そういう依頼だからさ。『伊織ちゃん』はどう?」

 初対面で伊織ちゃん呼びとは恐れ入る。
 対偶の置いた書類を数枚机に広げ、読み出しながら伊織ちゃんは答えた。

「そーですねえ、そろそろバーガー、バーガー、アンドバーガーな生活も飽きてきたっちゃ飽きてきたところなんで一考に値する気もするんですけどー」
「確かに俺も味噌汁が恋しいお年ごろだけど。それ以前にだ」

 さっきの衝撃のワードを書類の中で改めて見つけ出し、トントンと指で弾く。

「中学校ってなんだよ」
「若作りだから中学生ごっこぐらい大丈夫じゃないかなって」
「いやさすがに無理があるだろ。高校生でもギリギリだぜ」
「これ見てよ、こんなのがいるんだから十分中学生だよ」
「ああん?」

 これ、と差し出された写真に写るのは、時代錯誤にも程があるリーゼントの厳つい集団だった。

「……こんなんいるのかよ」
「風紀委員らしい」
「風紀乱し隊とかじゃなくて? 明らかに取り締まられる方だろ」
「腕章つけてるし」
「うっわマジかよ」

 うっかり、よりによってこんなアホらしい集団にわずかながら興味を惹かれてしまった俺は、なんやかんや言い包められ(途中から何故か伊織ちゃんまで説得に加わってきた)、最終的には日本行きのフライトチケットを受け取ってしまっていたのだった。



「で、結局なにすればいいんだ?」
「なんかマフィアな少年たちを監視する感じらしいですよ」
「ホントに中学校かそれ」

 こんな風に、飛行機の中でようやく要旨を確認するくらい適当な感じでも、今のところなんとかなりそうな仕事っぽいんだけどな。多分。



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