メリー猥褻




クリスマスの飾りをバッグに詰め、いつもより腕が重い私と偶然一緒にいただけのヒナイチさんに、謎の光が浴びせられる。
車のライトかと思って身構えた私に対し、ヒナイチさんは異変に気付き刀を引き抜く。
「ちん!ちんちんちん!」
「どうしたの!?言葉責めされた?」
ヒナイチさんが下ネタを叫び、続けて口を開いた私までもが下ネタをブチ撒ける。
急いでマスクをずらし、ヒナイチさんに駆け寄った。
あれ、これたしかロナルド戦記の序盤で読んだ気がするけど、なんだっけ。
私たちの前に立ちふさがる怪しいステッキを持った怪しいおじさんが、こちらを見てニヤニヤしている。
「ちんちん!ちんちーん!」
「おじさんの背中を灰皿にする!」
黄色のスーツ、赤い目。
怪しいおじさんは、怒りと焦りを浮かべるヒナイチさんを見て楽しそうにしている。
「ちん!ちーん!ちん!」
「お嬢さんたちの慌てる姿はいつ見ても愉快だね…!」
この偉そうな雰囲気は間違いない、吸血鬼だ。
「クンニ上手そうな顔してるわね、ヒナイチさんに顔射したの!?」
「ここに来るまでにも何発か打ってきたよ、この街は既にY談の支配下…!」
わいだんといえば、猥談のことか?
日頃下ネタばかり考えているせいで耳までおかしくなったかもしれない。
でも、なんか知ってる気がする。
猥俗な笑顔を浮かべる吸血鬼、これなんだっけ、ロナルド戦記の序盤に出てた雅樸爺さんだっけ?
「おっぱい揉まれてポルチオでイクわ」
「私は吸血鬼Y談おじさん!」
そうだ、Y談おじさんだ。
語彙の全てが悲惨なことになった私を置き、ヒナイチさんは駆け出した。
応援を呼びに行ったのだろう、こいつを捕まえないと色々と大変なことになる。

今日はクリスマスの飾りつけを手伝うために、ドラルクとロナルド君が私の部屋に来るというのに。
三日くらいかけて、部屋を綺麗にしたのに。
「耳にコンドームして、女王様にケツでイカせてもらいなさいよ」
「クリスマス?そんなの楽しんでるの?」
Y談おじさんが持っているステッキから出るビームを浴びると発言が公然わいせつになる。
ロナルド戦記では「聞くに堪えない名を名乗った吸血鬼を「公然のユダ」と呼ぶことにする。」と書かれていた。
ビームを出すだけで他者を性的に貶める能力、ロナルド戦記で仮称になるのも当然。
「クリトリスどうしてくれんのよ!」
「ふむ、Y談の君!名前は?」
なまえ、と言おうとしたのに口が言うことをきかない。
「私はサキュバス!他人のスケベアウトドアを食べて生きて128歳、おっぱいとまんこは永遠の14歳!」
「サキュバスが新横浜にもいるとはね…!なまえ…。」
何勝手に呼び捨てにしているんだ、と言ったはずなのに「お辞儀をしろ」と舌打ちしてしまった。
新横浜には吸血鬼のドラルク、吸血鬼退治人のロナルドがいるし何がいてもおかしくない。
前者は私が密に恋する人物で、後者はこの状況を打破する力がある。
こうなってしまっても、この吸血鬼には言葉が通じる。
一方的に不利な状況の中、出来ることは言語を捨てて攻撃するくらい。
知性が伴わない行動のみ残された私に、Y談おじさんは笑いかけた。
「私のビームを食らって平然としているとは…なまえさん、素質があるじゃないか。」
「マゾの素質が表裏一体、サディスティック」
攻撃していいかな、相手はなんか武器みたいなステッキ持ってるし。
クリスマスの飾りが入ったバッグを路肩に放り投げ、厄介な吸血鬼と対峙した。
ドラルク以外の吸血鬼なんて、興味はない。
大体ドラルクと仲良くなりたいというだけの理由で一緒にいようとしているのに。
「開発してどうなるかは体質による」
「うーむ?最近のサキュバスだとしても主食は性だろう、私との相性は最高のはず。」
それがどうした、私は新横浜に生きるサキュバス。
退治人とも共存していけるんだ、閨事も秘めたものにしていきたい。
「中イキ!」
「クリスマスは食い時だろう?君の邪魔をしたいわけじゃないんだ。」
「全身性感帯…」
享楽主義のドラルクと共に、クリスマスを楽しみたいだけ。
でも今日はサキュバスらしさを徹底的に排除した部屋にドラルクとロナルド君を呼んで、楽しく過ごせると思ったのに。
冷蔵庫に作っておいたお菓子とかあるのに。
「舐め犬になってよ!」
唇から見える長い舌を引き抜けば、ビームの効果も消えるだろうか。
「ていうか、クリスマスってサキュバスもやるの?」
「ギリシャ生まれ箱根育ち、ファッキン中出しカップルに困らなかった!」
Y談おじさんの赤い瞳が喜々に揺れ、ステッキを構えた。
「これにかかったサキュバスは大体その場で食事を開始するものだとばかり…。」
「えっ、それは、手マンじゃ潮噴けないけどスパンキングで噴く!」
「時代が時代だからな、存分に食事ができないんだろう?」
「ち、ちが、血が出る縄の痕!」
一瞬の焦りを見られたが運の尽き、Y談おじさんは寒気がするくらいの笑みを浮かべた。
いやらしい笑みの底にある吸血鬼の凄みを肌で感じて、敗北の予感が脳裏を過る。
「我が眷属にならないか、Y談ビームを出せるぞ!」
「乳首からビームが出る!?パンツのマシンガンからビームをメスイキ連射したい!」
「君ほどの逸材が我が眷属になれば、新横浜中、いや神奈川県中をY談で恐慌に陥れることができる!」
「得る快感だけでいうなら女同士!ビアンセックス!」
卑猥な笑みを浮かべた吸血鬼から逃げるか、戦うか。
「さあ私に血を差し出すんだ!」
逃げたほうがいいな、勝ち目ないわコレ。
こっそりスマートフォンを取り出し、ドラルクに電話発信。
「望まない絶頂ー!!」
私の叫びが消える前に、建物の影から現れたサテツくんが猥褻の権化に殴りかかる。
するりと避けたY談おじさんは、瞬く間に姿を消すという表現が適切な足の速さで去っていく。
車道を走る自転車と同じくらいの勢いの足の速さには追い付けず、ステッキを持ったY談おじさんは雑踏に消えた。

「ちんちーん!!!」
ヒナイチさんの背後にいるショットくんが「危険日だろー!」と叫びながら駆けつける。
Y談おじさんが逃げた方向に半田くんが走り、仕留めにかかるのを見て安心した。
戻ってきてくれたヒナイチさんと、サテツくんとショットくんに状況を伝えるべく、口を開く。
「サテツくんの腹斜金をシャブってから嬲りたいタイプでもあるの!」
退治人たちには見せたくなかった一面を見せてしまい、額に汗が浮かんできた。
種族、サキュバス。
どうしても公然わいせつになってしまう。
「うわああ、なまえまでリードしてくれるタイプに見えなかった…。」
「お前はいいだろ……俺なんか…なまえさんにあるムダ毛でバリ勃ち…」
青ざめた二人も気の毒なことになっている上に、私まで犠牲になったことを憂いてる気がする。
「この情事を退治人たちの夢精の理由を述べて、空になったキンタマで出来るイラマチオ!」
「俺は…俺は…。」
言いづらそうにするサテツくん、狼狽するショットくん、なんて恐ろしいビームなんだろう。
何かを伝えたいサテツくんが私を見降ろす。
「サテツくん、私はタイプじゃない男はタンツボ以下!ショットくんの尾てい骨のザーメン!」
顔を真っ赤にして声をだしたサテツくんを見て、申し訳なくなる。
「俺は…騎乗位で…ちんこ持ってかれるくらい搾り取られたいです…!」
「搾精!」
恥ずかしさに悶えるサテツくんを眺める間もなく、スマートフォンから「なまえ!?いま外に出ないほうが良い、後で説明するから…!」というドラルクの声が聞こえた。
今日はクリスマスの飾りつけは中止。
それだけ、それだけでも言えばいい。
自分は無事ではないことを伝えれば、中止のお知らせはできる。
どうしてこうなった、全部あいつのせいだ。
「まんこ大洪水スポットの振動で子宮からよだれ!」
スマートフォンから「嫌ぁー!なまえがマスター並に酷いことになってるー!」と、悲鳴が聞こえる。
とりあえず、予定は中止。
肩を落とした私に、ヒナイチさんが背中を支えてくれた。
「ちんちん…。」
「ヒナイチさんのアクメ顔ぜったい可愛い」




「ふふふ…なまえ、Y談とは生命と切っては切り離せぬもの!」
マリアに殴られ、シーニャに縛られているY談おじさんが目をキラキラさせている。
「つまり貴女は性欲旺盛!欲求不満が募ってるのさ!」
半田くんに捕まり、吸血鬼対策課が来るまで退治人たちにボコられることになった吸血鬼が私を勧誘する。
「みっともない姿を晒していいのは好きな人の前、雌豚乳首奴隷!」
「素質あるし猥談カフェとか開かない?」
「やめないで!酷いこと言われて中イキするーっ!」
退治人たちに混じってY談おじさんを足蹴にしていると、後ろから「なまえ。」と呼ばれる。
振り向く前から分かっている、ドラルクだ。
一仕事終えたヒナイチさんに挨拶をしにきたら、珍しい顔が犠牲になっていたから覗きにきた、そんなところ。
ドラルクの顔を見て、必死に口元を抑える。
慌てる私に対し、ドラルクは落ち着いていた。
「なまえ、それは治るから大丈夫だよ。」
ちがう、そうじゃない。
ドラルクのLINEを開き、「嫌!」「好きです」「しゅぽしゅぽ」と書いてあるスタンプを連打。
「まだビームの後遺症が…?」
後遺症はあるかもしれない、でもドラルクが好きなのは本当なんだけどなあ。
置きっぱなしにしていたバッグを取り、中身を見せる。
クリスマスの飾りを見たドラルクが笑顔を見せてくれて、つい「あああ…ドラルク、角が挿入可能なプレイをしたい」と漏らす。
買ってきた飾りの中で目についたのか、白い手袋に包まれた細い指がリースのリボンを手に取った。
飾りとドラルクを交互に見て、俯く。
約束を果たせなかった私に、ドラルクは笑いかけてくれた。
「こんなことで嫌いにならないよ、あとは然るべきところに任せよう。」
「クリ…」
「飾りつけは来週にしよう、ロナルド君は予定が合わないだろうから、私だけ行くよ。もちろんジョンも。」
ということは、来週になれば私の部屋でドラルクと二人きり?
Y談、お前ありがとうな。
嬉しさのあまりサキュバス化を抑えられず、額から角がバキバキに生えた。
目の前でサキュバスの擬態が解ける光景を見てしまったドラルクが砂になり、後ろにいる猥褻の権化が爆笑している。
砂を心配するジョンを見ながら、服を突き破って生えた尻尾でY談おじさんの顔を往復ビンタした。




2021.11.06



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