晴天の下より




「ご機嫌だな。」
外出用の外套を着た都丹さんが、私の足音だけで察知する。
「お出かけ用の髪飾りをつけたの」
そう告げると、都丹さんは乾いた笑いを向けた。
「なまえが可愛い格好したって、オレには見えないんだ。褒めてくれる奴のところ当たってくれ。」
悲しいまでの事実に対して、都丹さんは笑ってる。
居心地の悪さを感じて、彼の外套の裾を掴んでから大きめの声を出した。
「私がお洒落したいからお洒落してるの!」
私を伺う真顔を向けた都丹さんが「お、おう。」と呻く。
「早く行かないと、混むよ」
「あの店、飯時を過ぎるとうるせえもんな。」
集音器を装着した都丹さんが歩き出したのを見て、黙って着いていく。
後ろから見たら、普通のおじさん。
都丹さんは舌を鳴らしながら、道に迷ったり木にぶつかることもなく歩く。

想いを伝えても「オレなんか優しくすれば簡単だと思ってんだろ?」と何回も聞き流されてきた。
聞き入れてもらえるまで、何度も機会を伺っては想いを伝え、私が本気で言っていると悟った都丹さんは「なんでオレなんだ?」と驚いていた。

小道に入ってから、都丹さんの腕を掴んだ。
こちらに顔を向けたのを見てから、微笑む。
彼の目に映ることのない笑顔の意味は殆どない。
それでも雰囲気は伝わるらしく、腕を掴んでいる手をそっと撫でられた。




彼は、私の足音と声が好きだと言う。
私が「都丹さん」と呼びながら駆け寄るのを聞くだけで、興奮してしまうらしい。
興奮の段階を聞いたら「なまえがオレ目掛けて近寄ってきて…それからオレの名前を呼ぶときの声を聴くと、ギンギンになっちまう。」と返ってきた。
視界のない人の感じることは、正直よくわからない。
確かにわかるのは、私と都丹さんは好き同士だということ。
土方さん達の前では我慢している欲望は、二人きりになった時に漏れ始める。
都丹さんと買い物に行った日は、街中にある茶屋の一室を借りて時間一杯まで寛ぐ。
同じような目的で使う人が一番少ないのは、昼。
明るいとか、人が起きてるとか、そういうのは都丹さんには関係ない。

荷物を部屋の隅に置いて、お茶を飲み終える頃になると都丹さんはそわそわし始める。
私のいる方向を見ては、顔を伏せたり向けたり。
一挙一動は耳で伝わっているようで、簪に触れたり足を崩すたびに都丹さんは私を見る。
「来る途中のこと、まだ気にしてるか?」
こういう時、都丹さんは謝ったりはしない。
「オレといるのにお洒落しても、侍女にしか見られねえよ。」
その代わり、自分をこれでもかと卑下する。
視界を無くし何年も自問自答した結果の心得なのだと思うと、少しだけ胸が痛い。
「まだ言うの?」
「若いのに、盲のジジイの介護してると思われたら嫌だろ。」
世間話も尽きた頃、試すように外套を脱ぐ。
誰かが見れば何てことはない光景でも、都丹さんに伝わる意味は違う。
囚人であったことも、目が見えないことも、閨事には溶けない。
必要なのは、二人だけの世界。

「庵士さん」
下の名前を呼ぶのが、私からの合図。
名前を呼ばれた庵士さんは、顔を赤くして頭を掻いた。
「耳がくすぐってえ。」
嬉しいときは、庵士さんは頭や耳を掻く癖がある。
庵士さんの手が伸びてきたのを見てから、胸元に飛び込む。
大きな手が私の服の隙間に入り込んで、身体の柔らかいところを全て探られる。
「上になってもいい?」
「駄目だって言っても乗るんだろう。」
唇を舐めると、舌が絡まりあう。
庵士さんとまぐわう時は、舌、足、腕の順で絡まりあう。
耳が真っ赤になっているのを見て、わざと音を立てて口づける。
口腔に舌を這わせ、上顎を舌先で舐めると庵士さんの肩が震えたのを見てから、下半身の膨らみを撫でる。
服の上から性器を触ると、素直にズボンを下ろしてくれた。
「触ってないのに、こんなにして」
唇を離して、近くにあった座布団を庵士さんの背後に置いてから押し倒す。
腰に跨り、膝の上に座るような体勢をとった。
身体が暑い。
している間は脱いでしまおうと思い、帯に指をかけた瞬間、庵士さんの手が私の腕を掴んだ。
「布と肌が触れ合う音がいい、全部は脱がないでくれ。」
「暑いんだけど」
「お互い様だろ。」
衣擦れと肌の触れ合う音を聴いて興奮する庵士さんの陰茎を太ももで擦りながら、陽に照らされる。
快晴の下で始めるのも、だいぶ慣れてきた。
大きな手が胸を揉みしだいて、子宮が疼く。
「ひぁ、おっぱい…」
「いい乳だな、見えてたら毎日オカズにしちまうぞ。」
節くれだった指が、肌に埋まる。
「やあ…そんな…」
「まあ…なまえは他の奴のオカズになってるだろ。オレの上で腰振ってるような女だってあいつらが知ったら、犯されちまうな。」
あいつら、って誰だろう。夏太郎くんとか?
他の人が知るような状況というと、皆がいる時に私が「庵士さん」とうっかり呼んでしまったら。
そんなことになったら、どうしよう。
「ん?反応がいいな。」
下品な空想で感じたのがバレて、猛烈に恥ずかしくなった。
太ももで挟んでいる性器の先端を手のひらで擦り、低い呻き声をあげさせながら腰を動かす。
太陽の香りと、昼下がりの静けさに溶け込んでいく私の吐息。

「どういう体勢がわかる?」
わざと煽ると、庵士さんは楽しそうに顔を歪めた。
「見えないからわかんねえな、説明してくれ。」
「庵士さんのチンポを太ももで挟んで…私の濡れたアソコに擦り付けてる」
言葉にして、どれだけ恥ずかしいことをしているか分かる。
私の鼓動を聞き逃さなかった庵士さんが、求めてきた。
「どんな気分か言ってみろ。」
「腰を振るたびに…擦れて、気持ちいい…」
乾いた手のひらが、皮膚の上から子宮を撫でた。
「説明しながら気持ちよくなっちまって。」
呆れたように言い放ちながら、私の腰を掴んで自らの上半身に引き寄せた。
寝転がった庵士さんを組み敷く体勢になり、性器に触れられる。
「声が聴きたい、ケツあげてろ。」
濡れた肉唇を人差し指と薬指で開かれ、中指で陰核を軽く撫でられた。
触れられるたびに卑猥な水音がして、何も考えられなくなっていく。
「ん、あぁ、きもち…い、ああっ」
「馬鹿でけえ声だすなよ、やばくなったら噛みつけ。」
快感で思考が吹き飛ばされ、身体に素直になってから息を吐きだすと、庵士さんのもう片方の手が滑る肉壺の中を探る。
ゆっくりと指が膣内に沈まり、指の腹で探られていった。
「や、あ、あ、あ、ああ」
「なまえ…さっきの想像したろ?」
「してない、してないっ」
呼吸と鼓動で、興奮していることは全部バレている。
顔色が見えなくても、庵士さんは逃さない。
「目の見えないジジイで気持ちよくなってるのがバレたら、あっという間にちんぽに囲まれちまうかもな。」
この関係がバレても、そんなことをする人はいない。
でも、もしそんなことになったら。
淫猥な妄想と共に、脳の奥が痺れるような快感が指で与えられていく。
「やだ…やだ、庵士さんがいいの…」
「はーっ………なまえ、可愛い。」
どこをどうすればいいか、庵士さんはもう知っている。
膣内に指を入れて第二関節で折り曲げて弄ると、無味無臭の水が性器から溢れることも、中を弄られながら陰核を触られるとすぐに気をやることも。
仕掛けをひとつひとつ外していくような指が、私の中で蠢く。
「あぁ、やあ!そこっ…!ああっ!」
「はしたない声だな、普段は澄ました声してんのによ。」
「あぁ、ああぁ、ひっ」
腰から頭にかけて快感が滲み、全身の力が抜けていく。
大きな声で喘ぐわけにもいかず、庵士さんの肩に噛みついて快感に耐えた。
「ふうううっ!うっ!んう!!!」
ああぁ、だめ、もうイク、イクの。
私が言葉にしなくても、呼吸と鼓動を聴いて、愛液を垂らす性器に触れていれば分かるのだろう。
膣から指をゆっくりと引き抜いてから陰核に触れ、私の腰が大きく跳ねたのを感じてから「なまえ。」と呼んだ。
「膝いてえだろ、オレの膝にケツ乗せろ。」
「う…うん…」
ぐったりとした身体を引き寄せられ、庵士さんが私の上に覆い被さる。
辛うじて動く手で庵士さんの陰茎を掴み、膣口まで引き寄せた。
先端が蜜壺に触れると「ふ、っう。」と庵士さんが喘いだ。
私しか知らない、庵士さんの顔。
説明しろとか、気分はどうだとか言われてないけど、私は言いたくて仕方ない。
「あ、んじさんの、チンポが、挿入るよっ…」
両脚を庵士さんの腰の後ろで組んで、逃がすまいと抱き留める。
肉の中に入りこんでくる質量に息を詰まらせながら、両手を伸ばした。
庵士さんの肩に両手が触れて、すぐに抱きしめられる。
「やらしい…。」
「庵士さんのっ、おっきくなったちんぽが、甘えたいよーって…私の中に、いっ」
言い終える前に、庵士さんが思い切り腰を振り始めた。
下のほうから突き上げるように腰を振ると、庵士さんの肌が陰核に触れて気持ちいい。
「っう…ふう……!」
自ら性器に手を伸ばし、膨らんだ陰核を慰めるために指を動かして、何度も喘ぐ。
膣で快感を貪って、陰核で快感を引きだす。
庵士さんが私に口づけたあと、耳元で囁く。
「積極的になってんじゃねえか、どうした?」

だって、だって。
気づいてないだろうけど、庵士さんが私の前で見せる顔があるの。
白濁した瞳の奥にある瞳孔が目立って、顔が赤くなっていて、耳はもっと赤くなってて、目元は切なそうにしていて。
抱きしめると、凄く嬉しそうな目をするの。
大好き、愛してるって言うと、庵士さんは幸せそうに笑うの。

性欲に塗れた私は、愛を飲み込んで誘う。
「庵士さんの、はしたない顔を見れるの、私だけだもの」
言ってしまった。
『言うじゃねえか。』と言って私を責め始めると思っていたら、庵士さんは動きを止めて私をもう一度抱きしめた。
「なまえ…!なまえっ!」
身体の奥底を開かれ、大好きな庵士さんの恥部によって全身が揺さぶられる。
今が昼間ということも忘れ、まぐわっては熱と快感が弾けていく。
「すごっ…い、庵士さん、奥、きもちい…」
「奥が良くなってきてんのか、助平な身体してやがる……。」
「きもちいのぉ、奥っ、庵士さんが、精子いっぱい出すとこだよっ」
刺青が見え隠れする庵士さんの肌。
苦役を乗り越え、視界を奪われ、土方さんの元につくまでの血の滲む思いを、私が全て理解することはできない。
衰えを感じさせない逞しさのある身体に抱きついて、喘ぐ。
それでも、目の前にいる庵士さんを愛さずにはいられない。

「あ、あぁ、ああ、きもちい、庵士さん、あぁ、あぁぁぁ」
腰の動きが早くなり、絶頂が近いのを知る。
子宮を押し上げるような動作と、膣をえぐるような感覚。
挿入された陰茎の形がはっきりと分かる感覚に支配され、庵士さんの腰の後ろで脚を強く組み、逃がさない。
もっと、もっとして。
中を擦られて喘ぐ私に、もっと溺れて。
「庵士さん、庵士さぁん!」
乱暴に腰を打ち付けられても、快感しか引き出されてこない。
庵士さんが私の上で必死に腰を振るのが嬉しくて、快感の海に飛び込ませたくなる。
「庵士さっ、きもちいっ」
「止まらん…ッ!」
快感に浮かされた庵士さんの顔。
肉の中で種を吐き出す欲に支配された庵士さんを知っているのは、私だけ。
「ずっと気持ちいいの、庵士さん、だいすきぃっ」
腰が何度も打ち付けられ、膣内で陰茎が何度か動く。
射精を感じ取っても、腰は逃がさなかった。
「なまえ……。」
「なあに」
「…さっきの声、良かった……。」
顔を真っ赤にした庵士さんが、私に覆い被さったまま呻く。
「どの声?」
「オレの顔がどうのっていう…。」
上半身を動かし、また口づける。
興奮して燃え上がったあとの舌は、熱の塊のようだった。
愛液のように滑る唾液が混じり、互いの唇が濡れる。
息を整えているうちに、他の茶室に人が気配がした。
そろそろ出ないといけないのに、肉体的疲労で動けないでいると庵士さんが私を抱きしめる。
「なまえ、オレも愛、して、る……。」
見えていない両眼で、私を見据えて言い放つ。
嬉しくて、庵士さんを抱きしめた。
「庵士さん、すき」
「ずっと、こうしてたい。」
刺青の上を流れていく汗を見ながら、熱が冷めるまで抱き合っていよう。





2022.05.28



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