給湯室での秘め事
マリンが給湯室で湯呑みを洗っていると、
後ろに気配を感じた。

マリンが振り返ると、
我愛羅が神妙な面持ちで立っていた。

『があ…風影様、お疲れ様でした。』

思わず
"我愛羅"と言いそうになったマリンは
慌てて"風影様"と言い直した。

『(今は仕事中だ。
浮かれてないでしっかりしなきゃ。)』

2週間ぶりに見た我愛羅に
内心飛び跳ねたい程浮かれていたマリンだが
そんな乙女心に鞭を打ち、
ぴしっと背筋を伸ばした。

そんなマリンを知ってか知らずか
我愛羅は普段の調子で口を開いた。

そして、我愛羅から発された言葉に
マリンは凍りつく事になる。

「マリン、
俺以外に好いている男が居たのか?」

『…はい!??』


先程、会議中に見せていた
堂々とした威厳はどこへやら。
そんな様子とはかけ離れた
とても弱々しい目でマリンを見つめる我愛羅。
それはマリンがいつか見た
行かないで、と必死に訴えかける
幼い我愛羅の目と重なり、マリンは胸を痛めた。

「火影が言っていた。マリンには、
心に決めた者がいると。それは本当か?」

『なっ、そ、それは…』

「すまないマリン、俺はお前とすでに恋人であると、勝手に思い込んでいた。しかし、よくよく考えればお前に俺の気持ちを伝えた時、俺はお前に付き合おうという言葉は言っていなかった。テマリがよく女には気持ちを言葉にしなければ伝わらないと言っているが、こういう事なんだろうな、あの時はお前と気持ちが通じ合って俺は舞い上がっていたんだ。だが、俺は今ひどく後悔している、お前にあの時ちゃんと『ちょっと、ストップ!!!!!!』

「??」

息継ぎする間も無く喋り続ける
我愛羅の顔の前に
マリンは勢い良く手をかざし、
タンマをかけた。

『あの!!ちょっと!ストップ!!
どこから突っ込めばいいか、
よく分からないんだけど、
とにかく、お互いの気持ちを伝えた日から、私も我愛羅の事、ちゃんと恋人だと思ってたよ。確かに言葉は無かったけど、それはお互い様だし、私にはちゃんと我愛羅の気持ちが伝わっていたから、大丈夫だよ。私が、昔も今も想っている人は我愛羅だけだよ。』

ぎゅっと我愛羅の手をマリンが握った。

『それと、綱手様が言ってたのは
我愛羅の事で…その…前から私が我愛羅の事好きなのに気付いてたみたいで……それで、その……きゃ!!』

必死に話すマリンを
我愛羅はいきなり抱きしめた。

『我愛羅…?』

「良かった……」

ぎゅっとマリンを
抱き締める腕の力を強めた我愛羅。

先程とは打って変わり
安心した様な我愛羅の声に
マリンはほっと胸を撫で下ろした。
その一方で、
次から次へと言葉を繰り出す滑舌な
我愛羅を思い出し、マリンはクスクスと笑った。

『ふふふ…
あんなに一気に喋る我愛羅、初めて見た。』

「ああ、俺もあの様に
ペラペラと喋ったのは初めてだ。
自分でも驚いている。」

「それ程、
マリンを失いたくないと必死だった…。」
と、苦しい様に呟きながら我愛羅は
マリンの肩口に頭をすり寄せた。
そんな我愛羅を安心させる様に
マリンは我愛羅の背に、そっと腕を回して優しく撫でた。


しばらくお互い無言で体温を共有するかの様に
抱き合っていた二人だが
おもむろに我愛羅が口を開いた。


「マリン、俺は人より
口が下手だ。だが、伝えたい事はなるべく言葉にして、伝えようと思う。
今日の様な気持ちはもう二度と御免だ」

『うん、ありがとう、我愛羅。
私も、そうする。
今日は嫌な思いをさせてごめんね?』


「いや、お前は何も悪くない」



マリンから離れた我愛羅が、
マリンの顎をすくって目線を合わせる。


「マリン」


熱っぽい瞳をした我愛羅が
マリンを見詰めた。


やがて我愛羅の顔がマリンに近付いていく。


マリンは次に起こるであろう展開を
受け入れる為、瞳を閉じた時だった。


ぎゅるぅぅぅ〜!!


「「!!」」

二人の唇が触れる直前に
マリンの腹から、大きな音がなった。

二人は目を丸くして、見つめ合う。

『〜〜〜〜〜っ///
ご、ごめんっ!!!!』

マリンは真っ赤な顔を両手で覆い、
恥ずかしさのあまりその場にへたり込んだ。

我愛羅はクスクスと笑いながら
愛おしそうにマリンを見詰めた。

「そういえば、もう昼だな。行くか。」

未だに真っ赤になっているマリンの頭を
我愛羅が優しく撫でた。

「そんなに腹が減っていたのか?」

我愛羅はマリンの手をとり
引き上げるが、先程の我愛羅の言葉により
マリンの顔は更に赤くなっていたのだった。



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