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バァァンッ!!と凄まじい音をたてて
薄暗い部屋の扉が開いた。

そこに立っていた人物にマリンは
目を見開いた。

『我愛羅っ…!!』

我愛羅はあられもない姿になったマリンと、
そんなマリンに跨るゲントを見ると、
空気が揺れる程の殺気を放ちながら
背負った瓢箪から砂を勢い良く飛び出させた。

「な、なんだお前は!!
僕の部下は何をしてるんだ!」

「黙れ。お前は殺す。」

あっという間に
ゲントの身体に砂がまとわりついていく。
その様子に慌てたゲントがポケットから
何かのスイッチを取り出した。

「いいのか!?
お前が僕を殺そうとした瞬間、
僕はこのスイッチを押してやる!
そうすればこの里は一瞬で消えるんだぞ!」

我愛羅はゲントの言葉に
目を丸くして固まった。

マリンはゲントの意識が
完全に我愛羅に行っている事を察し、
力を振り絞って、
スイッチに向かって手をかざした。

次の瞬間ゲントが持っていたスイッチは
パァン!という音を立てて粉々になった。

「ああああ!!
…お前ぇぇぇ!!!!」

ゲントはマリンを睨みつけると、
拳を振り上げながらマリンに飛び掛った。

『っ!!』
「砂縛柩」

反射的に目を瞑ったマリンだが、
予想した衝撃は来なかった。

恐る恐る目を開けると、
目の前には砂の塊があった。

「マリンによくも…」

怒りでわなわなと身体を震わせながら
スっと、手を構えた我愛羅に
何かを察したマリンは『待って!!』
と叫んだ。

「マリン…しかし…」

『他の方法で
…ちゃんと罪を償って貰おう?』

マリンの暖かい瞳を見て、
我愛羅は腕を下ろした。

そしてツカツカとマリンの元へ行き、
自分の赤い上着を脱ぐと、マリンに着させた。

「マリン、遅くなってしまってすまない。
怪我は無いか?何もされてないか?」

スルリと優しく頬を撫でる我愛羅に
マリンは、必死にこくこくと頷きながら
安堵の涙を流す。
自分の身体が恐怖で震えていた事に今気付いた。

『我愛羅…でも、なんで、ここに』

震える声で話すマリンを
我愛羅はふわりと抱きしめると
安心させるように、背中をトントンと叩いた。

「火影からマリンが銅の国に
任務に行ってからなかなか帰らないのだが
俺の所に来ているか?と、
連絡がきたんだ。
4日も連絡が取れないと聞いて
いてもたってもいられなかった。」

『我愛羅…ごめんなさい…
迷惑掛けちゃて』

「何が迷惑だ。
俺にとって何よりの優先順位はお前だ。
里の方は、テマリとカンクロウが
しっかりやってくれてる。
俺もあいつらを信頼している。
お前が心配する事は何もない。」

『ありがとう…我愛羅、
助けてくれて、ありがとう…』

我愛羅の肩口に額を押し付けて
マリンは静かに涙を流した。
いつもは誰よりも強いマリンが
こんなに弱っているのを初めて見た我愛羅は、酷く心を痛めた。

「もう大丈夫だ。」
と囁きながら、我愛羅はマリンの頭を優しく撫でた。

同時に
肝心な時に傍にいられなかった後悔と、
これからは何があっても自分がマリンを守らなければ、と心の中で決意を固めた。

「…そういえば、ここに向かう時に
同じくお前を探しに来たカカシと
合流したのだが、どこに行ったのだろうか」

『お兄ちゃんが…?』


その頃カカシは
我愛羅が目もくれずに
かき分けて進んで行った
ゲントの100人の部下達と
熱い死闘を繰り広げている最中だった。

「マリンー!!どこに居るのー!?」

虚しいカカシの叫び声が辺りにこだました。





その後、ゲントとその仲間達は
刑務所に送られた。
拘束されていた市長も無事に保護され、
銅の国には再び平和が訪れた。


マリンも木の葉の里に帰って、
丸1日、睡眠をとると、
翌日には何事も無かったかの様に
綱手の元で働いたが、
マリンは綱手から
「次からは1人で任務には行かせない」
と、長々説教を食らったのだった。

カカシは、やれ動いて平気なのか、
やれ寝ていた方が良い等と
マリンの隣をずっとうろちょろしていた。

そして、マリンが帰って来ないと、
とても心配していた木の葉の仲間達は、
マリンが帰ったと聞くや否や
大量の差し入れを届けにマリン宅へ押しかけた。

我愛羅とテマリとカンクロウからは
容態を心配したり、
元気になったら里に顔を見せに来て欲しい等と
これまた大量の手紙が絶えずに届き、
マリンの日常は慌しく過ぎていったのだった。


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