嵐の落とし物




地上ではある日を境に
長く続いていた驚異的な天変地異が
ピタリと収まった。
が、各地での影響は凄まじく、
忍達は連日、復旧作業に追われていた。

木の葉の里内の森を視察していた
火影である猿飛ヒルゼンは
同行していたはたけカカシに呼び止められた。

「火影様、この子は…」

この森の守神とも伝わる大樹木の下に
少女が横たわっていた。まだ幼い子だ。

「息もしておる。怪我もないようじゃな。
ただ、妙な力を感じるな。」


チャクラではない。
今まで感じた事のないパワーを少女から
感じた火影が恐る恐る
少女に触れようとした瞬間
パチっと少女の目が開いた。

「火影様、念のため、お下がりを。」

カカシはすかさず火影の前に出て
警戒を示すと、火影がそれを制した。

「大丈夫じゃ、カカシ。
…嬢ちゃん?大丈夫かの?」

少女は真っ直ぐ火影を見上げた。

『…ん?あれ?ここはどこ?』

漆黒のクリクリした目が火影を見据える。
敵意は一切感じなかった。
黒い瞳からは
"深い闇"などの表現ではなく、
"宇宙"のような美しく神秘的な物を連想とさせた。

「ここは木の葉の里のはずれにある森じゃ。
お主、名前は?どこから来た?父や母はおらんのか?」

『私はマリン。5歳だよ。
私どこから来たのかよく分からないの…
パパとママは大事な仕事で遠くにいったよ。
もう会えないみたい…すっごく寂しいけど、
ずっと見守ってくれるって言ってたから…
我慢するって決めたの。
私には、困ってる人を助けて欲しいんだって!』

拙いながらも必死に紡ぐ言葉から
忍である両親が恐らく命を落とす様な
重要な任務に行ったことを
火影はある程度察しを得た。

カカシも顔を歪める。

しかし次の瞬間その考えは打破された。

『…ん?何?…うん、分かった!
おじいちゃん、神龍が話をしたいって』

神龍?
火影は大昔の伝説話を思い出した。

マリンはすぅ…と目を閉じると、
パタリと横たわった。
意識が無くなった様だ。
二人が慌ててマリンに歩み寄ろうとした時だった。
身体が思った様に動かなくなると脳内に直接声が響いた。

−猿飛ヒルゼン、はたけカカシ、
我の名は神龍。
神の化身、世界の創造神、尾獣達の神、
とでも言おうか。
お主らの昔話とやらに出てくる龍だ。

「「!?」」

ビリビリと身体じゅうを電流が流れ、
二人は顔を強ばらせる。感じた事もない力だった。

「(なんじゃ、これは…)」
「(身体がピクリとも動かない…)」

2人の頬を冷や汗が伝った。

−この娘、マリンの中に宿っている。
ここ1年続いた天変地異は
天界の神々による争いの影響だ。
この子はその被害を救いに地上に落とされた神の子だ。
見た目は普通の子だが、力は膨大。
地上の救いとなるだろう。
両親である女神マリアと神ゼウスは
地上を守るために命をかけて争いをとめた。
そのおかげで天変地異はピタリと止まった。
信じられぬだろうが、全て事実だ。


火影とカカシは息を呑み、
マリンを見つめた。

−この子の天界にいた記憶と
両親が神である記憶はない。
この子の両親が消した。
この子に人間として
この地で幸せにくらして欲しいと
望んで行った行為だ。俺も同じだ。
マリンには両親の分まで幸せに生きていってほしい。

お前達はマリンの力を悪用しないと断言できる。
俺の人を見る目に間違いはない。
この子を傍に置いてやって貰えぬか?




火影はしばらく考え込む。
カカシは信じられないとでも言うようにマリンを見つめた。

「(事情は分かった。
それが世のため、里のためにもなるだろう。
それに神の子だろうが子供は子供。
こんなに幼い子は放っておけん。
マリンはワシの孫として大切に育てよう。)」

火影が神龍に語りかけた。

−恩に着る。俺もマリンと共にある。
世のために尽くそうぞ。

さっと、重苦しい力が抜けて
カカシはため息をついた。

「(ちょっと待ってよ…
いろいろぶっ飛んでて付いていけないや…)」

「マリン」

火影がマリンに歩み寄り
頭を撫でる。

パチリと目を開けたマリンは
火影を見上げた。

「これからよろしく頼むぞ。」

『…うん?
こちらこそよろしくお願いしますっ!』

「お守り役はカカシに頼むぞ」

ニヤニヤとからかいの目線を
向ける火影にカカシはビクリと
肩を震わせた。

「は?!!えっ!!??…あ。」

キラキラした目でこちらを見つめるマリンに
カカシはすっかり毒気を抜かれるのであった。







それから数日経ち、
木の葉から少し離れた場所にある港に
火影とカカシとマリンは訪れていた。

里への被害は少なかったものの、
港は津波により壊滅的で
船もほぼ全て酷い損傷を受けており、
とても漁に出られる状態では無かった。
そのため、現在、漁師や市場は危機的状況だった。

『あ、お船、全部壊れちゃってる…可哀想。』

「マリン、お主の力でこれはどれ程治せる?」

ポカン、としたままマリンは
さぞ当たり前とでも言う様に言い放つ。

『全部治せるよ?お船さん可哀想だもん。』

マリンはさっと手を横切らせた。
気付けば港は元通り。
波も穏やかになっていた。

「なんと…」「嘘でしょ…」

二人は目をパチくりさせた。

『神龍の力は本当に凄いね!
お船さんも治って良かった!』

キャッキャッとはしゃぐマリンだが
神龍はというと人目を避けるため
周囲に結界を張ったのみである。

(−まだ自分の力と気づいてないか…
俺が本当に力を使う時なんて
マリンに危険が迫った時か…
いや、そもそもそんな事無いだろうな。)

「俺の出番はない」と思った神龍は
身体を丸めて、眠気に従う様に目を閉じたのだった。




 

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