我愛羅の決意





【我愛羅side】


それからの記憶は曖昧だ。
覚えているのは
マリンの腕を掴んで、引っ張る俺を
変なニヤケた顔で見るテマリと、
俺とマリンを見て、買ってきた焼きそばを
盛大にひっくり返したカンクロウ。
何処からか聞こえた木の葉の連中のむさくるしい叫び声だけ。
掴んだマリンの腕が想像以上に
柔らかくて、気持ちよくて、
俺は何も考えられなくなった。

何処をどう歩いてきたのか覚えていない。

気づいたら人気のない
公園のベンチに二人で座っていた。


沈黙が続く。
気まずさの中に少しの心地よさがあって、
俺の体温はいつもより高い気がする。


俺は公園の砂場に視線を向けた。
そういえばマリンと初めて話した時も
公園に居たな。

沈黙を破ったのは、マリンだった。

『なんだか、初めて我愛羅くんと
喋った時の事思い出しちゃった。』

「奇遇だな、俺もだ。」

至近距離で目が合った。
お互いの目を見つめ合う。

『我愛羅くんの目は本当に綺麗だね、』

「今まで生きてきた中で
その言葉を言われたのはマリンだけだ。」

『ええ!そうなの?
でも、私も我愛羅くんが初めてだよ、
人の目を見て、綺麗だなって思ったのは』

ふふふ、と笑うマリンは
"少女"というより、"女性"であった。

そうか俺たちはもう18歳。
出会ってから13年も経ったのか。

改めてマリンを見つめた。
我愛羅はマリンから目が離せなくなる。


「俺はマリンの目を見る度に
魅入ってしまう。昔からそうだ。
吸い込まれそうな程、綺麗だ。」

『…が!』

「??」

『が、我愛羅くんって、変わったよね、
もちろんいい意味で。
昔は、ずっと泣いてるイメージだったのに…
なんだか大人っぽくなった。』

「マリンもじゅうぶん、変わった。」

『そうかな?私は全然自覚ないや。
私、どんな風に変わったかな??』

「…とても、綺麗になった。」

な!と、顔を真っ赤に染めたマリン。
伝染する様に俺の顔も熱くなる。

触れたい。

そう思った。

気付いたら俺はマリンの手を握っていた。


俺よりも小さな手だった。
縮んだのか?
…いや俺の手が大きくなったのだろう。
けれども暖かいのは昔と変わらない。
懐かしい暖かさだった。

『我愛羅くん…??』

「マリン、俺は今まで里に対し何度も
とても許されない行為をしてきた。
お前の想像する、きっと何倍も残酷な事を。」

『…。』

真剣な表情で俺を見つめるマリンに
俺はさらに話を続けた。

「罪滅ぼし、とまでは
行かないかもしれぬが、
今度は、俺が里を守っていきたい。」

『…我愛羅くん。』

「ずっと前から考えていたんだ。
いつかは自分自身で殻を破って
前に進まなくてはならないと。

だが、お前に会って決心がついた。
俺は…風影を目指す。」

『!!』

「いつも、お前に守られてばかりだったが、
今度は守る側になりたいんだ。

俺が風影になったら、
マリンに伝えたい事がある。

そしたら、また、俺に会ってくれるか?」

『我愛羅くん…当たり前だよ。

今の我愛羅くんなら、絶対になれるよ、
私、信じてる。離れてるけど、応援しているから。』

繋がれた手をぎゅっと握ったマリン。

マリンの潤った黒い瞳の中に
俺が映っていた。

マリンの白い頬はほんのり赤く染まっていて、
また、触れたい。と思ってしまった。
心臓の音がうるさい。

マリンに手を伸ばそうとしたと同時に
いくつもの、足音がこちらに近づいてくることに気付いた。

「ったく、我愛羅のやつどこいったんだってばよ〜、
しかも、マリンを連れ去りやがって〜」
「俺らもそろそろ帰らなきゃヤバイじゃん」

ナルトやカンクロウ、木の葉の連中の声が聞こえた。


俺はマリンに伸ばし掛けた手を引っ込め
繋いだ手を名残惜しくも、離した。

「マリン、いきなり、連れ出してすまなかった。」

『ううん、我愛羅くんと
久しぶりにゆっくり話せて良かった。
行こっか?』

フワリと笑ったマリンに
また心臓が跳ね上がった。

ベンチから立ち上がって
ナルト達の声の元へ向かった。



まだ心臓の音がうるさい。





 

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