やっと自覚した恋心





【我愛羅side】




ずっと会いたかった人がいた。


だが、最後に会った時とは
格好も髪型も雰囲気もだいぶ変わっていた。

人違いか?
だが、あれはマリンだ。多分。
いや、絶対そうだ。
見間違える訳がない。


輪の中心で
木の葉の連中に笑いかけてる。

ズキ…

マリンの笑顔を見た者に
笑顔が伝染していくように広がる。
幼い頃に隣で見た光溢れる笑顔の面影を残しつつ、
女性らしく上品でありながら、
どこか色っぽい笑顔から俺は目が離せなかった。

ああ、俺にもその笑顔を

俺にだけ、向けてほしい。

ズキズキ…

マリン、お前を見ると何故だか胸が痛む。


「マリン?」


隣からテマリの声がした。

マリンがテマリに気付いて手を振る。

「(マリン)」

心の中で彼女の名前を
呼ぶと、綺麗な黒い瞳が俺を捉えた。
ああ、綺麗だ。前もどこかで。

そうか、昔もお前に見つめられた時に感じたものだ。
その後は決まってお前は眩しい程の
笑顔をむけるんだ。

『我愛羅くんっ!!』

「…っ。」

ほら。今だって。そうだ。
胸のズキズキが、
ギュゥゥゥと締め付けるような痛みに変わった。
でも、どこか温かいんだ。
矛盾してるが、苦しくて、心地よくて、
なんだか目頭が熱くなって、俺はたまらずに目を逸らした。



マリンが俺とテマリの元に駆け寄ってきた
それと同時に風がすり抜けた。
いい香りがする。マリンからか?
団子の様に纏められた黒髪はとても艶やかで、
浴衣から覗く綺麗な首筋に、
俺の中で何かがゾクリと音を立てた。
脳が麻痺する様な。思考能力が鈍りそうだ。

しかしマリンは全くこちらを見ない。
テマリとばかり話してる。
いつの間にそんなに親しくなったのか。
モヤモヤするのはなんだ?
ズキズキしたり、ギュッと締め付けたりモヤモヤしたり、
どれもマリンを見ている時、
近くにいる時、マリンの事を考えている時に起こる。


いつかアカデミーの宿題で読まされた
本の中に出てきた
文面がいきなり頭に浮かんだ。

<あの人を見ると、胸が高まる。
ぼーっとしては、あの人の事を考えてしまう。
そうして、勝手に胸が苦しくなる。
笑顔を思い浮かべると、僕まで嬉しくなる。
勝手にあの人を目で追ってしまう。
そんな癖がついてからしばらく経ったけど、
やっと気づいたんだ。
僕は恋してるんだ、あの人の事が好きなんだと。>


当時は何を言ってるのか
全く理解出来なかった文面が
ポンと頭に浮かんで、ストン、と俺の胸に落ちてきた。

そうか、…俺は
幼い頃からお前にずっと「恋」をしていたらしい。

今、やっと気が付いた。
重苦しい感覚が少し引いた気がする。


「マリン」

周りの声は聞こえなかった。
俺とマリン、二人だけポツンと世界に
取り残されたかのような錯覚。

ポカンと、俺を見つめるマリンからの
目線は俺の位置よりもだいぶ下で
よくよく見ると俺との身長差がだいぶあった。
マリンは、こんなに小さかったのか。
離れていた時間が長いせいか、
今更ながらに気付く事がたくさんあった。


「マリン、少し、話さないか?…二人で」





 

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