イノセンスは液体になってリナリーの体内を通り抜けた。足首から溢れ出る血液は意思を持つかのように羽を広げて、そして“もう一度”彼女を選ぶ。

「残念だなっ! もうお前に逃げ場はねーよ」

腹立たしい。エクソシストがこれだけ居ながら、これだけ時間が掛かってしまった。何より俺が、いるのに。

折れた剣をもう一度継ぎなおして固く握った。

「ふはは、ふははははっ! しょせん、あなたはわたしをころせやしない!」
「っ黙れ、踏み倒すぞ」

頭が痛い。燃えるように脳味噌は熱を発している。どうしたらこれは治るんだろう。こいつを殺せば楽になれるのか? やる価値は有るかもしれん。

「どうやって殺してあげようか。刺殺絞殺圧殺焼殺爆殺どれでも好きなのを選べよ」
「ははっ、ははははははははは!」

可笑しなものを見る目で、そのアクマは嗤った。おまえのいのせんすは、“ころす”のか?

一瞬首を傾げて考えて、そうすると頭がすうっとした。違う、俺は殺さない、慈悲深く神に祈りを捧げてアクマの魂の成就を願う一心だ。駄目だ今日の俺はどうかしてる、狂ってる、頭がおかしくなってしまっているようだ。咎落ちしたいのか俺は。

そうだ。俺は、殺さない。

  
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