圧倒的な試合だった。目の前で起こったそれが信じられなくて、私はしばらく、無表情で佇む幸村君を見ていた。まさか、あの温和な彼が。

客席の一番下に居た筈の仁王君は私の近くに来て、ふと笑った。珍しく人を喰ったような笑みでは無く、心此処に在らずというような笑い方だった。彼は既に、幸村君のテニスに心を奪われてしまっていたのだろうか。



「凄いじゃろ、うちの神の子は。なあやぎゅ」

「……神の子とは?」

「巷じゃそう呼ばれとる。ま、本人は気に入ってないらしいがのう」



コートに君臨する姿は確かに、神の子と呼ぶに相応しい。言い得て妙なものだと一人で納得した。

彼のテニスを、知らない方が良かったのかもしれない。けれど、一度観てしまったらもう絶対に忘れられない。尊敬の念を抱くに値する人だと、私は生まれて初めて憧れを持った。



「…貴方がしつこく私を誘っていたのが、ようやく分かりましたよ」
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