五感を奪う。無意識にやってしまうそれは、所謂イップス、と呼ばれるらしい。コントロールも出来ず、相手を傷つけてしまうだけのそれ。

医者に掛かったら、それは神の領域だと零された。俺だって本当はしたくないんだ。普通にテニスがしたい。でも誰も理解しては、くれない。皆は“特別”を目指して努力しているのだ。五感を奪う、なんて絶好の才能だろう。



「ッ俺だって好きでやってるんじゃ、」

「それでも」



それでも、君の才は立海が全国優勝を成す為に必要なものなんだ。錦先輩は無表情でそれを告げる。必要とされているのは俺ではない、天才の称号なのだと。意志は必要ない。唯勝利を絶対に掴むことの出来るそれさえあれば、十分なのだと。

気が付いたら錦先輩は部室に居ない。涙をぼろぼろ溢して拭いもせずに俺は座り込んでいた。
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