幽霊は居るんだ。

夜の校舎から帰ってきた幸村は、それからよくそう口にするようになった。それが、ただの脅しなのかそれとも経験譚なのかははっきりとしないが、いつしかその話は立海大付属中の七不思議の一つに数えられることになる。

それは兎も角、それからというものの、幸村は部活終了後に積極的に残ろうとはしなくなった。居ないものが苦手とは良く言ったもので、俺達はそんな彼の姿を珍しいものを見る目で見ていたのだがそれが、いつしか大きな仇となった。幽霊なんて切っ掛けに過ぎない。

更に悪いことに、幸村は、嘘を吐くのが上手い。決して悟られぬように、彼は綺麗な嘘を吐いてみせる。本心を見せるのも、弱音を言うのも苦手な彼だが、何故か嘘は上手に吐いた。

そして、きっとこれが最大の欠点だと思うのだが、彼は、俺にまで嘘を吐くようになったのだ。





四月もあと少しで終わろうとしている頃、部活が終わってから、後輩に指導を頼まれない限りすぐに帰るようになった。なので、自主練をする真田や蓮二と一緒に帰ることは減り、今日も一人で帰っている。

最寄り駅から徒歩十数分を歩いている最中、他に誰も通らない住宅街の中で、不意に手を動かせなくなるような感覚に陥る。感覚が無くなるのはいつも手だけなので問題はないけれど、おそらくこの間、赤也と初めて戦った日に階段で力が抜けたときも同じような感じだったよな、と思い出した。

最近、頻繁にでは無いが起こるようになったこの現象は一体何なのだろうか。病院に行ったほうがいいのかなあと思いつつ行っていない。だって、行ったら何故か蓮二にそのことを知られ、そして真田にそのことを何故話さなかった、と怒鳴られてしまう。

それにしても、感覚が無くなるなんて、もしかしたら神様は俺に罰を与えたいのかもしれない。全く、勝手に力を与えた挙句俺の五感も奪おうとするなんて、神様も大したことをするものだ。
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