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 山崎の調べたとおりのルートで船に入り込むことが出来た。入り込む、と言っても映画とかにありがちな排気口から足と腕で上がり天井裏を這いずっている。しかし、予想していたような罠もなく怖いくらいに順調だ。

「……こりゃァ朝には帰れそうですぜ」
「油断大敵、心に垣をせよ、だぞ」

 総悟が呆れたように呟くのを諌めるが、正直俺も呆気に取られている。
 面倒だから艦橋(っぽい所)は避けて、紅桜の回収と奴にぎゃふんと言わせることを目的としているのだが、流石の山崎でも船内の地図は無いので適当にそれっぽい場所を狙うしかない。とりましばらく進めば、いかにも怪しげな培養器が連なっている場所を発見した。

「三、二、一」

 格子を外して、ゼロのタイミングで俺から飛び降りる。着地し態勢を整えると脇の刀を抜いて警戒するが、運よく人気も無く一度収めた。この部屋には紅桜の培養器しか置いていない。

「……こりゃすげェや」
「圧巻だなァ」

 培養器の中には無論紅桜の兄弟達が陳列されていた。うわァこんなにあったら江戸征服も夢ではない。てかこれじゃ回収するより壊すほうが早いよなァ、と考えていたら、横の総悟がごそごそと何かを取り出して培養器の方にそれを向けていた。

「全部吹っ飛ばしちまいやしょうぜ、土方さん」

 それは携帯式対戦車ロケット弾発射器、いわゆるバズーカである。残念ながら発射機使い捨て型であるが、真選組では愛用されている安価なバズーカだ。

「吹っ飛ば、えっ?」
「ちょっとォそこにいたら巻き込まれちまいやすぜ」
「ああすまん……じゃなくて!」

 思わずノリツッコミしてしまったがいや待て。総悟は悠々と座りバズーカを構えている。何なんだコイツ。四次元ポケットでも持ってんのか。

「はいせーの」
「いや待て待て待てェ!」

 どんと一発向こうに打ち上げれば、培養器は爆風に煽られてガラスが割れ中の液体が漏れ最終的に紅桜たちはその衝撃によって大参事である。どこからか、やたらと強い風がびゅうと吹いて、危うく倒れそうになるが渾身の力で足を踏ん張った。

「馬鹿かお前ッこんなことしたら俺達がここにいることバレちまうだろうが」
「……あ」
「やっぱ総悟お前馬鹿だろあ、じゃねェよ今気付きましたみたいな顔止めろ」

 こんなときばっかりかわいこ振るな。クソ、この美少年め。はじめから戦わずして目的が果たせるとは思っていないが、それにしたって限度がある。
 いやそうじゃなくて。そう、この馬鹿に叫ぶと共に、この部屋の外から何者かの気配が近付いてきたのを感じた。仕方がないが、結局紅桜は全部始末できたということでプラマイゼロ。そう思い込むしかない。

「でも、お陰で向こうからお出ましだ」
「良いように言うな、まったく」

 ドア越しにも感じる程のおどろおどろしい気配。ゆっくりと開く、その向こう。そこにヤツがいる。雰囲気のみで、そう確信した。固唾をのんで刀の柄を強く握る。
 俺は嫌というほどに知っている。アレは兵器だ。もはや名匠の打った刀でも、生身の人間でもない。落としたはずの腕と紅桜は融合し、一つのバケモノへと成り果てた。アレは壊されるまで立ち止まらない。アレは、意思を持った兵器だ。
 馬鹿馬鹿しい。なにがあの男をそこまで駆り立てたのか。自分自身を殺してまで、そう成りたかったのか。……あるいは。否、これは「土方十四朗」には未だ、知り得ないことだが。

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