怒りでなんとなくハンジをもう一度沈め、その足でエルヴィンの執務室まで赴くと、幸運なことに暇そうにしていた。ようやく来たか、とでも言いたげな表情に多少なりともいらつくが、おくびにも出さないように努める。

「ああ、その様子だとやっと知ったということかな?」
「何が“やっと”だ。そういう大事なことはさっさと言ってくれ」

右足の爪先で床を二、三度蹴ると、エルヴィンはすっかり忘れてたんだよ、とのたまう。俺には文字が全く読めない書類から顔を上げ、ひと段落したのかペンを置いた彼は、その文机の引出から数枚の紙を取り出して俺に渡した。

勿論の如く読めないが。

「辞令だ、リヴァイ。君は私の班に所属し、次の壁外調査で活躍してもらう」

おそらく、文頭にあるリヴァイの名以外は読めないけれど、同じような内容が堅苦しく記してあるのだろう。まあ、読めないものには興味が無い。読んだ振りをして鞄の中に入れると、エルヴィンはその鞄を見てようやく俺が出かけていたことを知ったのかおや、と声を上げた。

「街に出かけていたのか? ミケが休みを取らせたことは知っていたが、まさか出ていたとはな。何か買ったのか?」

うっかりぼろが出そうで怖い。目を逸らして首を振ると、彼はそうか、と呟いた。納得したのか分からないが、聞くことは聞いたので部屋を出るがその際に一言、期待していると言われたけれどやはり嘘くさいとつくづく思う。
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