それは、リヴァイ班が旧本部城で生活し始めて一週間くらい経た頃だった。正確な日時は流石に覚えていないが、エレンも掃除がまあまあ戦力になるくらいの出来事である。俺ことリヴァイは書類整理をする際、はじめにコーヒーを一杯淹れる。まあ猫舌なのですぐには飲まずに、一息つく頃に温くなったそれを飲むのだが。

エレンは俺の観察対象として調査兵団に引っ張ってきたので実質おはようからおやすみまで始終顔をつき合わせているわけなのだが、一週間もすればそのコーヒーを淹れるという習慣にも気付いたのだろう。ふと、独り言めいた言葉を口に出した。

「兵長いつもコーヒー飲んでますけど、美味しいんですか？」
「俺も別に飲みたくて飲んでるわけじゃないがな。……飲んでみるか？」

その日、コーヒーはまだ淹れていなかったので一杯くらい増えても手間では有るまい。そう思って俺からすれば軽い調子でそう訊ねれば、尻尾をぶんぶん振っている姿が見えそうになるくらい嬉しそうに頷こうとしたのだが、途中で我に返っていえ、と首を横に振った。

「兵長にお手間は掛けられません！」
「それじゃあお前が淹れるのか？」
「へっ？」
「お前が二人分淹れれば俺の手間は掛からないしお前は飲めるし一石二鳥だろう」

まあ、そんなこんなでエレンが淹れることになったのだが、まずはじめにエレンはコーヒーの淹れ方を知らなかった。そのため俺が使い方を説明しながらエレンが淹れたので、結果的には俺の手を煩わせることになった。まあ別に暇だったし右往左往するエレンを見るのは中々面白かったので良い。

そんなわけで俺達は一杯ずつエレンの淹れたコーヒーを手に持った。雰囲気的にも時間を置かず今飲む流れだ。幸いにも右往左往している間に沸騰したはずのお湯は丁度良いくらいに冷めていた。

それを、俺は一気に煽った。

「……」
「どう、ですか？」

そもそものところコーヒーを淹れるくらいで普通は失敗するまい。しかも俺の監視の下で、だ。いやしかし、そういえば砂糖を一匙、と頼んだときには流石にそのくらい失敗するまいと目を離していたような気がする。いやしかしそんなベタな間違いを犯すだろうか。馬鹿なのか。

まあ要するにクソ不味いのだが。

「兵長？」
「……飲んでみろ」
「へ、はい」

ごくりと一口含んで飲み込む。途端エレンの表情は苦味を帯びた。

「苦いし、なんだかしょっぱいです」
「そりゃあそうだ。お前が入れたのは塩だからな！」

俺の言葉にぎょっとなったその顔が予想外に面白く思わずぶふ、と少々笑いが漏れたがエレンはそれに気付いてはいない。何食わぬ顔でポーカーフェイスを気取るが、矢張り本音を言えないのは俺の悪い癖だろう。


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