助けてくれとすら叫ぶことの出来ない程に目を見開き絶望に打ち震えている兵士は藁にもすがる思いでたった一人の彼を凝視した。ものも言えないがしかし兵士の目は死にたくないと雄弁に語っていた。兵士は巨人の握られた右手の中に居て、彼は地上で巨体を見上げていた。そのとき兵士の目には、今まで笑いもしなかった彼が柔らかく笑んだように見えたのだ。

彼は巨人が好きだった。「削ぐと消える」ところが魔物と非常に似ていて、あの世界との唯一の繋がりのような気がしてならなかった。だから、彼は巨人を恐怖しない。人は彼を変人と呼んだがあながち間違ってもいない。

「誘え」

彼のアンカーは巨人の肩に突き刺さる。トリガーを引いて速度を保ったままに空を飛ぶと、彼は遠心力によって勢い良くうなじを目掛けた。ようやく落ち着いてきた兵士は、彼の胸元が光り輝いていることに気付いた。紫色の光も呼応して彼の足元に幾何学模様を描き、それは刻一刻と変化している。

   ネガティブゲイト」

まるで魔法だと、兵士は目の前の光景を評した。巨人の足元から湧き出た暗黒色の腕はそれを抱きかかえるように何本も生え、地面に引きずり込もうとする。兵士はその隙に緩んだ右手から脱出に成功した。同時に彼の刃は確かにその巨人のうなじを抉り取りその体中から膨大なエネルギーが発散される。

「あ、ありがとうございます!」
「……」

周りにもう巨人がいないことを確認すると、兵士は彼に駆け寄った。胸元の飾りを弄っていた彼は兵士に気付いてそれを服の中に入れる。それに首をかしげた兵士だったが、もう一度ありがとうございます、と頭を下げると彼はそれを一瞬見ると溜息を吐いた。兵士は先程の彼の“魔法”に違和感を持っていないようだ。

「頭下げてる暇があるならさっさと本体に合流しろ」

――蛇足ではあるが、彼の名はリヴァイ・イェーガー。人は彼を“怖い方のリヴァイ”、もしくは“魔法使い”と呼ぶ。
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