リヴァイ・イェーガーには表情が無かった。本人も必要とはしていないらしいので何とも言えないが、その所為でどうしても取っ付き難い人に見えるのは致し方ないことだ。兵士長の方が口は悪いが感情は豊かなのでまだ声を掛け易いと言ったのは誰だったか。それでも腕は立つし顔も端整で、それでいて“魔法”も使えるので憧れる人間も決して少なくは無い。むしろ多いが孤高の存在、高嶺の花だという認識であった。そんなわけで今日も彼に話しかけてくる人間なんて居な――

「おーい怖いほうのリヴァイー実験に付き合ってくれないかい!」
「……昨日も付き合ってやっただろう」
「いやそれがねえレポート提出したら不備があるって突き返されたからもう少しデータを収集しないといけないんだよねえだから一生のお願い!」

彼の背後から声を掛けたハンジは彼の前に回り込むと神頼み宜しくぱん、と手を合わせた。ハンジの一生のお願いはこれで、彼の知る限り五回目である。どうも見捨てておけずに不承不承頷くとハンジはよっしゃあああとガッツポーズを取った。これを見るのも五回目だ。

「あ、そういえば」

ハンジの与えられている部屋まで歩く道すがら、先行していたハンジは何気なく振り返った。好奇心が渦巻く表情に彼は思わずその金色の瞳をひそめた。良くも悪くもハンジは(例外はあるものの)自分の感情を素直に表現する。わざとではないのかと疑うほどに、だ。ハンジのそのような点に置いては彼も好感を持っていたがしかし、その感情の矛先が自分に向くのならば話は別だ。

「巨人の彼、あなたの弟なんだってね」
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