「なあ、白石はテニス上手いん?」 壁打ちをしていたら侑士君に話しかけられた。さあなぁ、と濁すと彼は興味なさそうなふりをしてふーん、と返した。その実興味津々なのは傍から見てもばればれなのだが。 「壁打ちばっかやってへんで、一緒に打とうよ」 「ええよ」 空いていたコートに移動して、ポケットのテニスボールを取り出す。球に力を込めて、ラケットを振り被った。それから暫くは単調なラリーが続く。俺はその均衡を崩すのが好きだ。特に、決して力技ではなく自身の技巧でポイントを奪ったとき、なんとも言えない幸福感で満たされる。 俺の趣向はどうでも良い。兎も角、途中で少し飽きて、わざとらしく大きく高めにロブを上げる。いかにも失敗したような演技を忘れてはいけない。案の定、侑士君はにやりと笑ってスマッシュを打ちに来た。 罠に、掛かった。 「甘いな、侑士君」 ドロップボレー。低空飛行した球はネットに若干引っかかった後にころりと侑士君側のコートに転がった。この間ようやく上手く打てるようになった自慢のボレーだ。侑士君はしばらく球を見てぽかんと呆けていたが段々と目を喜色に変えて俺の手を握った。 「すっごいな、白石!」 |