及川

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「すき!だいすき!」

おーじゃあ行くべ。ってごつい男どもに囲まれて近くのラーメン屋さんに行くことになった。そうラーメン好きなの。醤油ラーメンは王道だよね。「紗希乃ちゃん、ラーメンは〜?」って聞いて来た徹くんはわざとらしく、ぐはっ!っとやられたフリをしてる。あぶないあぶない。何かの間違いで照れた顔なんかされた時にはわたしの顔まで爆発しちゃうとこだったわ。にやつきそうになるのを誤魔化すために花巻の背中を思いっきり叩いたら、お返しに思いっきりデコピンされた。くそう、爪固すぎだろ!

ラーメン屋ではカウンター席しか空いてなくて、みんなで横並びになる。

「紗希乃ちゃん席どこがいい?」
「べつにどこでもいいよ〜」
「あらあらそうですか吉川はオレの隣りがいいのね。さっすが見る目あるぅ」
「目が死んでますけど松川くん」
「花巻のここ、空いてますよ……!」
「マッキーそれだいぶ古いよ?!」
「……スマン」
「いや何もしなくていいからね岩泉くん」

徹くんと突っ込んでる間にどかどかと3人は座ってしまって、奥の二つだけ取り残された。徹くんと顔を見合わせると、「紗希乃ちゃん、奥ドーゾ」と案内される。隣りに座った徹くん越しにプスプス笑う三人の肩が震えてるのが見えた。こいつら……!

「紗希乃ちゃん何にする?」
「醤油〜」
「他なんかいる?」
「ううん、いらない」

みんなが口々に注文した流れで、徹くんがわたしの分も店員さんに注文してくれた。みんな大盛りかあ、すごいな。ていうか徹くん、「醤油普通盛り先に出してくれます?」なんて添えてくれた。なんか手馴れてない?女の子とのラーメン屋に慣れすぎじゃないこの人??

「ぶふっ、及川、となりとなり!若干引いてね?吉川」
「エッなんで」
「いやーこの気遣いって経験者の為せる技って感じだなあ、と」
「オレたちには到底マネできないっスわ〜。な、岩泉」
「おー。一生かかっても敵わねえわ」
「ちょっとみんな適当なこと言うのやめてくれる?!」

慌ててる徹くんは見ていて面白い。引いてるか引いてないかでいったらちょっぴり引いてるけど、気分が悪いとかじゃない。むしろ、ちゃんと女の子として扱ってくれてるんだと思うと嬉しかったり。あーこれだめだね。好きだと自覚した途端にこれだ。脳内お花畑かわたし。

「そんなに引かないでよ紗希乃ちゃん……!」
「安心して徹くん。どちらかというと引いてるの自分にだから……」
「え?」

邪念よ消えてくださいな。ちょうどラーメンが届いたのを良いことに食べることに集中することにした。好きかどうかなんて教育実習自体には何も関係ない。むしろさあ、フラれたりしたらさあ、折角の一度だけの教育実習の思い出が悲惨なものになっちゃうじゃんね。ここまで楽しかっただけにもったいない。…そっか、楽しかったんだ。そうだよ楽しかったよね。だから終わって欲しくないと思うし、徹くんともっといたいなって思う。最初の方に気付かなくてよかったな。

「ん?どうかした?」
「……食べるの早いなあ、って思って」
「お腹減ってたからね!」
「そっかー」

なにを思ってもあと二日。


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