14 休み明けのつらいつらい月曜日をやっとこさ乗り越え、また今日も一日始まるのか〜とベッドの中でごろごろする。はやく準備しなくちゃなあ、だけどまだギリギリまでこうしていたいよ。そんなわたしを無理やり起こしたのは一通のメールだった。 「…は、えっ?えええっ?!」 スマホ片手に飛び起きる。返信もしないまま、急いで洗面所へと走る。はやく顔洗わないと!っていうかお弁当鞄にいれなきゃ。あ、まずいシャツにアイロンかけてない。下の階の人ごめんなさい。朝からドタバタ駆け回ってうるさくて申し訳ないです。苦情はあとで聞きます!だって仕方ないんです。いつもと違うことされたらね、いくらなんでも動揺しちゃうよね!あ、電話。 『おっはよー!まさか今まで寝てた?』 「や、起きてた!」 『なんか息荒いけど、ほんとに起きてたのー?』 「だって急なんだもん!」 『流石に起きてるかなーって思って。それじゃー、迎え行ってもイイの?』 「うん!着く前に連絡くれると助かる!」 『オッケー!待ってて!』 朝から元気ですごいなあ。そういえば毎朝走ってるって言ってたっけ。突然の『今日うちの車を借りれたから迎えに行くね』という連絡に朝っぱらから慌ただしくしているわけだけど、そういえば断れば良かったんじゃないかな。歯を磨きながらそう思うけれど、断っているうちに朝の貴重な時間が削られていく。来てくれるって言うし、まあいっか。急いで着替えて化粧をして、弁当を入れた鞄を持つ。腕時計をひったくるように持つとスマホが短く振動した。あ、来たみたい。 「おっはよー紗希乃ちゃん。」 「おはよう徹くん。どうしたの急に!」 「うちの親が出張で関東行くって言うから車借りて来たんだよね。さあさあ乗って!」 むっふふーと怪しげに笑ってる徹くんは、とっても嬉しそう。まー、いつものわたしのちっちゃい車と違って乗り心地は抜群だろうし、いつも運転したいって言ってるのが叶ったわけだからね、そりゃ嬉しくもなるか。助手席のドアを開けて、ゆっくり乗り込む。少しだけ煙草の香りがするその車は確かに親の車って感じだった。 「やっぱりこういうのの方が乗りやすそうだね」 「まあね。でも、キーテイちゃんいないのがちょっぴり寂しいかも」 「乗っけてあげる?きっと徹くんのお父さん恥ずかしい目にあうと思うけど」 「小さい頃にテカチュウに耐えれたんだから無理じゃないかもしれないよ」 確かに子供の頃は親の車にぬいぐるみを乗っけていたっけ。わたしのアパートから細い道を下っていくと途中で花巻のアパートの前を通った。 「マッキー起きてるかな!」 「起きてるワケないよ。ヤツは昼以降のコマしかとってないもん。」 「もー、マッキーってばいつからそんなだらしない子になっちゃったんだろうね。」 「大学生マジックってやつだよ。4人のなかで一番だらけそうじゃん。」 「そう?オレは?」 「部活も授業もカッチリやって教育実習まで来てるヤツはだらけとは無縁でしょ〜」 「わーい紗希乃ちゃんに褒められた!」 「褒め…たのかな?」 「うんうん。徹くん朝から嬉しいこといっぱいで気分は最高デス。」 「へー、よかったね。」 「そこ掘り下げるとこでしょ!」 「だってくだらなさそうな気がして」 「人の幸せをくだらないなんて言うなよっ」 何度か見てきた拗ねる顔。酔っても酔わなくても、ぷっくり膨らむ頬は変わらなかった。これって本当に怒ってるのかな。本気で怒ったらどんな顔するんだろう。普段ニコニコしてる分とんでもなく恐ろしい顔にでもなるのだろうか。 「眉間にシワ寄ってるけど、どしたの。まさか本気でくだらないとか思ってた?!」 ひどっ!と声をあげた徹くんは、バックミラー越しにチラチラと視線を送ってくる。 「そこまで思ってないよ。じゃー、そのいっぱいの嬉しいこと教えてよ。」 「えー聞いちゃうー?」 「……。」 「アッ、ごめん脇腹つねんないでイタイ!」 言う!言うから!と涙目になってる徹くんだけど、脇腹に肉がほとんどなかった。なんなのこの人の体…!カッチカチなんだけど。脂肪が少ない分余計に痛かったりするのかな。嬉しいことを聞くよりも何よりも筋肉が気になってしょうがない。 「まずは車借りれたことでしょー。それと、紗希乃ちゃんに断られなかったでしょー。」 「あー、そうだね。」 「いつも乗っけてもらってるのと逆だから、いつもと違うのが楽しいね!後は、名前呼び普通にしてくれてるじゃん?」 「あー、そうそう。」 「ちょっと聞いてる?」 「聞いてる」 やっぱり気になる。 「ねー、徹くんさ、」 「なに?」 「ちょっと触らして!」 「はア˝っ?!」 なんかすごい声でた。信号で止まったところで徹くんのお腹へと手を伸ばす。やっぱりすっごい腹筋してる。なにこれすごいムッキムキじゃん。 「ちょ、ちょっと待って紗希乃ちゃん?なに?!これどんな状況?!」 「いや……なんてすごい体してんのかなあって思って」 「急にびっくりしたじゃん!そんながっちり腹筋掴まないでよ!」 「掴めるほど割れてることに驚きだよわたし」 「紗希乃ちゃんのヘンタイ!」 変態とは人聞きのわるいこと言うなあ。まあ、でも朝っぱらから確かになにしてるんだろ。 「ごめんごめん。」 「運転してる時じゃなかったらいいよ!ついでにスーツじゃない時だと尚いい!」 「いや、もう触んないよ」 「え〜。もったいないことするねえ。」 「及川徹の腹筋触れるのはレアだって?」 「そりゃーね!いくらファンの子でもさすがにそこは許さないよ。」 「ふーうーんー?」 「なにその疑惑の目!」 「実際のところどうかなんてわかんないし」 「大丈夫だってば疑わないでよ!」 ファンの子にはやすやすと許さないその腹筋も彼女になれば触り放題掴み放題なんだろうな。そういえば、実習で会ってる時の徹くんからは彼女の話は聞かない。というかそもそも高校卒業してからの彼の彼女遍歴とか知らなかった。今はフリーなのかな。 「まだ疑ってんのー?」 「そう言うんじゃないけど、」 「けど?」 「……なんでもなーい。」 なんか気になるなあ。 |