及川

13
「おはよう紗希乃ちゃんっ!」
「…おはよう」
「紗希乃ちゃん?」
「……」
「おーい、紗希乃ちゃん」
「……」
「もしかして忘れたの?」
「…オハヨウゴザイマス、トオルクン」
「なんで呪文みたく言うのさ!」
「こっちこそ聞きたいね、なんで検問みたく入り口で待ってんの?」
「酔って忘れてるんじゃないかと思って。」
「記憶とばすほど飲んでないじゃん」
「そーだけど、紗希乃ちゃん酔ってオッケー出してくれてたりなんかしてたら申し訳ないなと。」
「なにそれ撤回してくれるの?」
「しないけどね!」
「あー、そう!」

あわよくば忘れててくれたらなって思ったけどやっぱりそうはいかなかった。わかってはいたけども。うん。でも、無理やり言わせるわけでもなかった。何となく気恥ずかしい苦し紛れの一回目だけで及川はすんなりと会議室に入れてくれた。彼曰く時間をかけていくものらしい。時間てあと一週間しかないんだけどね。そういや一週間かあ。あっという間だな、残りもすぐに過ぎていくんだろう。及川と教育実習が被ったと知って絶望しかなかったけど、現状は助かってもいたりする。注目がほとんどあっちに持って行かれるから悪目立ちしないでゆったりできるし、思ったよりもやっかみとかは少ない。まあ、無いわけではないけど。

「そういえば、紗希乃ちゃんって放課後何してんの?」
「文化部とかの活動を見て回ったり、委員会みてたりしてるよ。」
「参加してるわけじゃないんだ。」
「だって、高校も大学も部活してないから生徒の活動の輪に入れるほど知識がないんだよね〜。」
「フーン。」

自分から聞いといてフーンって随分関心ないんだなあ。誰もがあんたみたく一つのことに燃えてるわけじゃないんだぞ及川徹くんよ。

「じゃあ、何にもない日ないの?」
「あるよ。大体そういう時は先生のパシリしてる。それか早く帰った日もあったけど。」
「お、そうなんだ。じゃあさ水曜の放課後空けといてよ。その日は委員会とか無かったでしょ。」
「放課後?及川は部活みないの?」
「紗希乃ちゃん〜??」
「……徹くんは部活みないの?」
「みるよ!その日はOB練習の日でさ、マッキーとか岩ちゃんも来るし、もちろんまっつんも来るよ」
「お、松川くんも?やっと4人揃うんだね。」
「そういうこと!だから練習見においでよ〜。」
「えー、なに高校生相手に大人げない指導をするOB感を見せつけてやると?」
「そうとも言う!」
「OB練はきついって聞いたからなあ」
「高橋に?」
「そ。」
「じゃー、もっとキツくしてやろーっと。」
「わたしのせいみたくなるじゃん。」
「いーの。どのみちビシビシやんなきゃなんだから。」

叩くなら折れるまでだからね!って笑顔で言ってることえげつないんですけど。





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