徒野に咲く
  
生きる為にはなんとやら

「蟹しゃぶ!蟹すき!蟹雑炊!」
「全部作ったるからテーブル片付けろや」
「はーい!」

私は料理をしないわけじゃない。先輩が作った方が美味しいし、先輩も作るの嫌いじゃないらしいので良し。あ、蟹みそグラタンもいいな……チーズあったっけ。テーブルを片付けろと言う割にダイニングテーブルの上に荷物をたくさん載せているのは先輩の方だった。北海道の有名なお土産の紙袋を覗けば、お菓子やら何やらたくさん詰まっていた。

「やる」
「こんなにいいんです?」
「あったら食うだろが」
「そりゃもちろん!あ、限りなく白い恋人だ〜こないだ上鳴さんに貰いましたよ」
「あ?んでそこでアホ面がでてくんだよ」
「えっと……うちの事務所に顔出しててお土産だって」
「お前ンとことチームアップしてたか?」
「いや〜?今のところ予定は皆無ですが」

エプロンをつけながら、首を傾げている爆豪先輩と目が合って、つい目を逸らしてしまった。いや、別に何もやましいことはない。1ミリもない。ただ、上鳴さんが謝罪しに来たって言ったらめんどくさいことになっ、

「なーんか隠してンなァ?」

アゴ!アゴが!がっちり掴まれて、首を振って訂正しようにもプルプル怯えたように振る事しかできなかった。なんとか逃れようと顔を反らそうと頑張るけど、握力が鬼のように強いこの人から逃げるなんて無理!ぐぐぐ、と頑張った結果アゴより上の頬に指が動いちゃって、頬のお肉ががっつり盛り上がってしまった。かなりの変顔を強要させられてる私が面白かったのか、先輩はプッと軽く噴き出してる。手、手を離そう。話はまずそれからだ。

「私は悪くない!です!」
「フーン。上鳴は?」
「いや?上鳴さんもべつに」
「じゃあ、アイツは何しに行った?」
「し、仕事で……」
「悪いかどうかの話題が出てる時点で仕事は関係ねぇだろが」
「うっ」
「で?」
「……お、お尻のちっちゃいお姉さんが……」
「ハ?」
「お姉さんが……夜の街……すすきの……スープカレーで熱愛……!」
「ホォー?なるほどな、あのアホがクソみてぇなこと言ってんのは理解したわ」
「いや土下座披露しに来ただけで」
「くだんね。で?お前は?あのクソゴシップ気にしてんのかよ」
「いやぁ、あの日私たち電話してたじゃないですか。だからお姉さんとよろしくやるのは難易度高いなって思って上鳴さんに通話履歴見せたんですけど」
「それ聞いたアホ面は?」
「なんかしおしおしちゃって可哀そうだったのでお土産と手持ちの和菓子をトレードしておきました」
「ハッ」

何か急に機嫌が良さそうな顔になったので、今度はこっちが首を傾げる番だった。そりゃあ上鳴さんが馬鹿な事言ってんなーって思うだろうけど、そんな面白ポイントあった?

「ひとつだけ言っとくわ」
「はい?」
「お前が尻が小せぇって言ったあの女はな、ダイエットとか抜かして草ばっか食べてるような奴で、」
「草て。野菜では??」
「そんなんよりも何でもかんでも美味そうに食う奴の方がマシ」
「ええっと、つまり、」
「……蟹、食うんだろ」
「食べます!!」



生きる為にはなんとやら



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