徒野に咲く
  
むかしのはなしD

この前植え替えた、芽が出始めたばかりの花の様子を見に花壇へ来たところで爆豪先輩が現れた。雄英ヒーロー科に受かったことで色んな人からもみくちゃにされて応援されまくってたのに、こんなとこいていいの?

「卒業おめでとーございまーす」
「アァ?!棒読みで祝ってんじゃねぇ!」
「だって卒業後も会うのに感動のお別れをするのはくさすぎません?」
「ちったぁ感傷的になれやモブ」
「モブだからなれませんねぇ」

卒業という節目だけあって、みんな何かしら感傷的になっている。私はと言うと親交のある先輩は目の前のこの人くらいなもので感傷的になりようがなかった。爆豪先輩ともうひとりの先輩……名前は忘れたけど、その人が雄英に受かったと喜びまくった学年主任が、来年私が雄英を受験するとうっかり口を滑らした。漏洩元を私だっておっ被せたりしてきたら上にチクってやるから覚えといてほしい。ヒーローになりたかったのかよ、ってぶすっと頬を膨らます先輩をなだめるのはそりゃもう大変だったんだから。家の意向でそうなってると伝えたら余計に顔が凶悪になって、花壇友達もここまでかと思った。……思ったのに、

「週末のトレーニングの準備はできてんだろーな」

ばれた日からなぜか一緒にトレーニングをする流れになって、今週末に至っては一緒に登山まですることになってる。筋トレとかアスレチックとか器用にこなしていく姿はとんだ超人だった。ああいうのをさらっとこなさないとヒーロー科じゃやっていけないってこと?本気で言ってる?

「あの山そんなに高くないって聞いたので初心者の装備でかためときました」
「ハイキング程度だろーがあんなとこ」
「いやいや初心者なんで、怪我もしたくないんで」
「筋力が足んねェなら筋トレしとけや」
「1週間でつくような筋肉なんてすぐ落ちるんですよそんなの」

ああ言えばこう言う。お互いにやいやい言い合うのもこれから減っていくんだろうか。校舎から流れる、いかにも卒業式ですって音色のクラシック音楽に感化されてそんなことを思った。学ランを着た爆豪先輩を見るのはこれで最後か。花壇の淵に腰掛けているその姿を、となりから観察するように眺めていれば握り拳が差し出された。

「ん」

小突き合って友情を確かめ合おうぜっていう……フリ……?そんなのする人だっけ。ていうかしたとしてもこのシチュエーションはおかしくない……?

「さっさと手出せやオラ!」
「うぉわ、」

私の手が引っこ抜かれそうな勢いで持ってかれて、手のひらの上に何かが落とされた。

「……花、」
「お前にやる」
「ぐっちゃぐちゃじゃないですか、これ」
「知らんモブ共が寄越せってウゼェから隔離しとったんだわ」
「隔離」

卒業生の胸を彩っていたはずの造花がきゅっと丸まって小さくなっていた。……しなびたように見える花びらをゆっくり伸ばして立体感をつけてみる。ちょっぴり歪だけど、そういうもんだと言われたらそうかもしれない花の飾りが完成した。

「花、好きなんだろ」

思えば、今日姿を見せた時からずっと手の中に握りこんでいたのかもしれない。動かす度に、今では嗅ぎなれた甘い香りがふわりと造花からふってくる。

「うん。好きですよ」

知らんモブにあげちゃえばよかったのに、と言ってみたら、「知ってるモブで充分だ」なんて返ってくる。本当に、この人は素直じゃなくてしょうがないなあ。

むかしのはなしD



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