徒野に咲く
  
むかしのはなしC

「俺がこの学校から雄英のヒーロー科に行く第一号になる」
「え、推薦?」
「一般」
「……なるほど」

花壇友達とは聞こえが良すぎて誰もが二度見するだろう特別可愛らしくもない爆豪先輩は、そこらへんに落ちた小石を手でいじりながら今後の進路を教えてくれた。別に聞いてないんだけど。一般ってことはまだ受験シーズンにすら入ってないから結果はまだわからない。推薦と言う名のコネ入学が決まっている私の先輩になるかもしれないってことか。まだわかんないけどさ。まあ、先輩のが先に入学しちゃえば第1号っていうのは変わらないし今は黙っておけばいいや。

「てことは鍛えたりとかしてるんですね」
「筋トレくらい誰でもすんだろ」
「誰でもします……?」

進路が決まってしまってからというもの、定期報告に合わせてトレーニングのような指示を受けるようになった。つまりは形ばかりのヒーロー志望ではなく、本格的にヒーローを目指しなさいっていう上からの命令だった。それがなかったら私は好き好んで筋トレなんかしない。ずっとぐうたら眠ってたいもん。

「今日はお友達と帰らないんですか?」
「あいつらはゲーセンに行くんだとよ」
「一緒に行けばいいのに」
「カツアゲ現場に一緒にいたら内申下がんだろーが」
「そこはカツアゲをやめさせるのがヒーローでは?」

ときどきふらりと現れて、私がせっせとお花の世話をしているのを眺めては、やいやい口の悪い言葉を零していく爆豪先輩。最初の頃は何か用事があるのか真面目に聞いてたけど今はもうそんなこともしない。なんとなく来て、なんとなく話して、なんとなく帰るだけ。今日も一緒に歩いて帰るけれども特別な意味なんてない。

「先輩の個性はヒーローに向いてますよね」
「お前のも使い方によっちゃ向いてんだろうが」
「えっ?向いてます?」
「敵を固めりゃ一発で捕獲できて楽だわ」
「固めるってそんな簡単に……いや、地面とか色々使えばいけないこともない?確かに全部固める必要ないな……足……あっ、関節!」
「……お前もヒーローなりてぇのかよ」
「……うーん……そういうわけじゃないんだけど、」

なれと言われたからなります。そんなことを言おうものならこの口ごと爆破されてしまいそうだ。

「一生懸命になれるものが欲しいです」

むかしのはなしC



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