くものみね

なんと。夏目さんから教えてもらった新事実にとても驚いている。夏目さんはおせっかいだなあ、とササヤンくんはぼやいているけど地味に楽しそうなのは気のせいかしら。


「へえー、賢二くんって水谷さんにフラれたんだ」
「そうそう。あのささっきから気になってたんだけど、吉川さんってヤマケンと仲いーの?」
「どうかなー。きのう、数年ぶりに話したんだよね。初等部の頃ぶりというか」
「それってかなり前じゃないですか!」
「そうなの。案外話せてびっくりしちゃった。」
「妹と仲良いなら仲良くなりそうなもんだけどね」
「幼い頃は親同士が知り合いだからよく遊んでいたけど、さすがに学校が男女別だと家に行かない限りは会わないしね」


初等部を出る頃のいつだったか、『もうおまえ家にくるなよ』と賢二くんに言われて、その時はショックを受けて、賢二くんに嫌われた…とか何とか思っていたけれど伊代ちゃんの話曰く賢二くんは別にそうでもないし、実際嫌われる云々以前にそこまで仲良しだった覚えもなかったから、ただ単に山口家に行かなくなっただけだった。きのうも普通に話したし、本当に普通の仲だと思う。


「男は狼ですよ吉川さん!」
「え、ああ、うん?」
「やっぱり夏目さんの話聞いてないんだね」

ひどい!と騒ぐ夏目さんをなんとか宥めて、周りを見回す。そういえば、伊代ちゃんたちいなくなっちゃった。まあ伊予ちゃんいるし、水谷さんと吉田くんが迷うことはないだろうから平気か。

「オレあっちのショッピングモール行きたい!」
「セールやってますよセール!」

ササヤンくんと夏目さんは目敏く次から次へとお店を見つけるから、それについて来るだけでも結構タイヘンだった。そろそろお休みしたいなあ。そう思っていたら、ちょうど噴水のある広場に出た。

「わたし荷物見ててあげるから二人で買い物行ってきなよ。その方が身軽で試着とかしやすいでしょう?」
「ナイスです吉川さん!」
「いーの?結構あるよ?」
「あそこ、ベンチあるから座って待ってるよ」
「最後にアイスでも買ってきますね!」
「んじゃよろしくー!」


二人に手を振って、ベンチでスマホをいじる。ラインには音女の友達からの通知が溜まっていた。(夏祭りかー。その頃には日本帰って来てるハズ…)連絡に『オッケー』とだけ打って、ねこのスタンプを押した。うん、キモカワイイ。


「(あ、そーだ)」


噂のヤマケンくん、好きな人にフラれたんだって。スマホで一気に打ち上げる。だけど、何だか送信する気になれなくてそのままアプリを閉じてしまった。



「(好きな人、かあ…)」


夏の雲がもこもこと膨らんでいくのを、ぼうっとしながら眺めた。モテる人でも、ちゃんと一人に心決めた人ができるんだなあ。失礼かもしれないけどそう思った。

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