からつゆ

屋上は開放的ですき。たまに一人でこっそりやってくるのもすき。


「あ、あのっ……!」


屋上のフェンスにもたれ掛かって外を見ていると、可愛らしい声が掛けられた。振り向くと、いつだったか伊予ちゃんと一緒に居た子がそこに立っていた。


「伊代ちゃんのお姉さん!」
「ちがうって言ってたよね?」


この子も人の話を聞かないタイプみたいだ。伊代ちゃん属性と言えばいいのかな。


「す、すみませええええん!」
「!?」

涙を浮かべながらぎりぎりまで近寄られる。これチューしちゃいそうだよ。そのくらい近いんだけど怖い!

「夏目さん、吉川さんが困ってるでしょう」
「あれ、名前知ってるの」
「あなた定期考査はいつも上位だったから」
「そういう水谷さんはいつも1位か2位だよね」
「あなたこそわたしのこと知ってるのね」
「成績と名前だけだけど」

あ、さっきの子忘れてた。水谷さんに窘められて一歩引いた女の子…夏目さん?が絶望的な顔で立ち尽くしていた。えっ、なんだこれ泣いたり絶望したりころころ変わるなあ。


「わ、わだしもながまにいれでくだざい〜!!」


訂正。泣きながら絶望していたようでした。










「……へえ……要するにわたしを友達居ないぼっちだと思っていたわけですか……」
「だって伊代ちゃんと友達だということは可能性は無きにしもあらずだと思った次第でしてっ」
「それじゃ伊代さんが友達いないみたいだけど」
「「え?いるの(ですか)?」」
「…そう」


きゃー!初ハモりー!そう言ってハイタッチしようとしてくる夏目さんをスルーした。若干涙目だけど、水谷さん曰くこれは彼女の通常運転らしいので気にしないことにする。あ、復活した。

「あのですね、わたしたちの後輩の先輩ということはぜひともお友達になってさしあげなければと思いまして!」
「ねえ、水谷さん。夏目さんって上から目線なのも通常運転なの?」
「その傾向は若干あると思う」
「そうなんだー」
「吉川さんもミッティもひどいですっ!!」

そもそもわたし普通に友達いるんだけどなあ。昼休みはみんな部活のミーティングとか行っちゃうからたまに一人になるだけなの。勘違いされてるようだけど訂正するのも一苦労だ。


「わたしたちのお仲間かと思ったんですけどどうやら勘違いのようですね」
「仲間とは?」
「もちろん友達がいない者同士です!」
「それってお互いがもうすでに友達なんじゃ、」

ないのかな。そう続けるつもりだった言葉が出る前に夏目さんの目がキラキラ輝きだした。

「そう思いますか吉川さん!」
「う、うん…」
「だったら今からわたしたちもお友達ですー!!ヤッター!友情の印に飲み物買ってきますね!」

そう言うやいなやダッシュで屋上を後にする夏目さんに思わず唖然としてしまう。水谷さんはクールにため息をつきながら、手に持っている単語帳を開いた。

「ごめんなさい吉川さん。彼女、人に対してコンプレックスを持っているらしくて友達だとかそういう繋がりに異常に敏感というか何というか」
「うん、この数分間で身に沁みたよ。それなあに、英単語?」
「そう。予習は早めにして損はないから」
「確かにね。受験単語は会話じゃあまり使わないからさっさと覚えちゃった方が面倒じゃないもんね」
「……!」

水谷さんの持つ単語帳を覗き込みながら言うと、めくる手が止まった。疑問に思って見上げると水谷さんの顔が心なしかキラキラしている。何だろう、デジャブ。


「わたし、あなたとなら気が合いそうだ」
「そうかな。まー、これも何かの縁だしよろしくね水谷さん」


ふたりで内緒話なんてズルいですーっ!と夏目さんが飛び込んでくるまであと十数秒。
今日は中々濃い出会いのある日だなあ、なんて思いました。

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