つばなながし

夏に近づいた。じっとりと暑い夏はあまり好きじゃない。シャツの袖を捲っていつもの道を歩いていく。何て事の無い日常の風景。……だったはずなんだけど。


「伊代の方が可愛い」
「そっちがその気なら受けて立ちましょう」


校門に入ってすぐの場所で見慣れた顔がふんぞり返っていた。何をしているのあの子は…。止めたい、と思うよりも関わりたくないという気の方が強かった。周りがしているように、わたしもそそくさと後輩の視界に入らないように避けて通ろうとした。


「あ、お姉さまお早うございます!」

が、無理ですよねー。わかってたよ、うん。この子は結構目敏いので視界の隅に入っただけで瞬時に寄ってくる。全くすごいわ。前に言ったことはすっぱりキレイに残ってない。


「……おはよう、伊代ちゃん」
「伊予さん、あなたお姉さんもいたの?」

さっきまで伊代ちゃんと張り合っていた人がしげしげとわたしを見つめてきた。あ、この子知ってる。学年1位をとったことがある子だ。

「ちがいますよ。幼等部からの先輩なんです」
「ねえ伊代ちゃんわたし何か悪いことしたかな、後ろの二人がすっごい睨んでくるんだけど」

1位の子の後ろにいる男の子と女の子が何だかギンギンに睨みをきかせている。ふつうにこわい、っていうか何で。

「もう!ハル先輩もあさ子先輩も警戒しないでください!紗希乃お姉さまはいい人なんですよ!」
「いいい伊代ちゃんにそんなお知り合いがいたなんてわ、わたっわたし知りませんでしたっ!」
「伊代の言ういい人はあてにならん!」
「ふたりともいい加減にしろ」


1位の子がキッパリ切り捨てると、「ミッティひどいですー!」と女の子はぎゅうぎゅうと抱き着きはじめ、男の子も「ずりーぞ夏目!!」と騒ぎ始めた。


……もう教室行っていいかな。

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