しんりょう

わたしが賢二くんを好きだと自覚したところで実際は何の問題もなかったりする。学校は違うし、共通の友人である吉田くんたちとも彼は最近会っていないみたいで常に吉田くんたちとつるんでいるわけでもないわたしは彼に会うこともない。つまるところ、自覚しようがしまいが前とあまり大きな変化はなかった。


「吉川さーん、わたしたちに言わなければならないことがあると思うんですが!」
「夏目さんパンツ見えてる」
「きゃああ!って、話を逸らすのはダメですよっ!」


パンツが見えてるのはいいのか。風がすこし強い屋上で、片膝立てて啖呵を切る夏目さん。スヌー●ーがこんにちはしている。水谷さんがス●ーピーを一度見た後、何事もなかったかのように英単語の勉強を始めた。ゆるぎないですねあなた。

「口が堅い吉川さんを見かねて今日は特別ゲストを連れてきました!大島さんです!」
「えっ、何それわたし特別ゲスト?!」
「ゲストにもサプライズだなんて夏目さんはチャレンジャーだね」
「大島さんはこう見えてガッツがある人なので突然のフリにも耐えられると夏目の調査で判明してます!ということで大島さん、吉川さんの恋バナを聞き出すんです!」

どうせこんなことだろうと思ったけれど、昼休みは特別やることもないのでこうして付き合っている。ちなみに大島さんとは少し話したことがあるくらいで実際そこまで深く話したことはないから新鮮さで言えばこの三人の中ではダントツかもしれないなあ。


「えっ、えーと…吉川さんは…す、好きな人はいますか…!」


大島さん。なんて優しいんだ。わたしだったら適当に流してると思う。伊代ちゃんにだってわたしはそうやってやり過ごしている。

「います!」
「あなたはいつから吉川さんになったの夏目さん」
「そもそも相手を特定してるのに、知らなかった体で話をふっかけてるから面倒なんだよね」
「面倒!吉川さんはわたしたちのことそんな風に思ってたんですかあああ!」
「たちってわたしと水谷さんも含まれてるの…?」
「大丈夫だよ大島さん。面倒なのは夏目さんと伊代ちゃんだけよ」
「そ、そっか」

面倒イコール嫌い、ってわけではないのだけど、夏目さんは想像以上に重くとらえてしまったらしく水谷さんの隣で体育座りで顔を膝に埋めてわめいている。だからスヌ●ピー
見えてるって。

「ごめんね、夏目さん。面倒っていうのは嫌いってことじゃなくて少し放っておきたいってだけなの」
「それフォローになってるのかな…」
「吉川さん、夏目さんは落ち込むのが仕事のような面もあるから気にしなくていいと思う」
「ミッティはわたしのこと何だと思ってるんですか!わたしは友達ですよあなたたちの友達!」

夏目さんの友達宣言を肯定してやると、満足したようにみるみる機嫌がよくなった。「そうですわたしたちは友達です!」にこにこ笑顔でパックジュースをすする夏目さん。落ち着いてもらえて何よりだけど、やっぱりパンツ見えてるよ。風が強いからガードが緩いよ夏目さん。ササヤンくんいたら大変だよ。


「で!その友達に言わなければならないことがありますね?」
「もうわかってるんでしょう夏目さんってば」
「夏目のカンは外れてなかったってことで、間違いないんですね?」
「当たってるようで当たってないよ。逆だもん」
「えっ?」
「わたしは彼のことが確かに好きだけど、彼はわたしのこと好きじゃないもの」
「えええ!そんなあ!」
「そもそも、彼はまだ……終わってないだろうし」
「でもフラれたって、」
「フラれたって忘れられないものは忘れられないよ」


現にこうして、蓋をしていたけれどぱっかり開いて面倒なことになっているんだから。もし、賢二くんが目も当てられないような落ちぶれようだったり、年上美人と付き合っていたりなんてしたならスッパリ諦めがつくけれど、フラれたてっていう微妙な時期に思い出してしまった自分が恨めしい。それに、賢二くんの好きな相手が水谷さんっていう辺りも何だかなあ。仲良くなったばかりの友人が恋敵でした。なんてどんな少女漫画だ。こういう時、何が何でも振り向いてもらおうとアタックするんだろうけど、わたしにはそれができない。この恋に蓋をした原因とブランクは予想以上にわたしの足を重たくしている。これからどうしようかなんて、まだ何も考えられていないんだ。



「(相手が誰かわからない…)」
「(夏目さんが知ってる人って誰だろう…)」

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