しゅうき

「お姉さまはやくはやく!」
「はいはいー」

ちょこちょこと先を走る伊代ちゃんに適当に返事をしながら後ろを歩く。何人か伊代ちゃんを振り返った。かわいいもんね。たまに可愛くないこと言うけど。

「伊代は先週からずーっと楽しみにしていたんですよ。お姉さまが久しぶりに遊んでくれるから!」
「最近忙しくてさあ。伊代ちゃんのクラスは文化祭の準備進んでるの?」
「伊代の代わりに男の子を置いてきました」
「さすがだね」

久しぶりに放課後の予定が空いたから、伊代ちゃんを誘って買い物に行くことにした。今日のためにお小遣いをもらってきたのだという。わたしそんなにお金持って来てないけどなあ。

「最近お姉さまつれないんですもの、つまんないです」
「家庭教師増えたからねえ」
「あら、勉強おできになるのにまたどうして」
「あなたのお兄ちゃんが予備校に通っていることを聞いたママがね、新しい人連れてきちゃったのよ」
「お兄ちゃんが予備校なんて行かなかったら、伊代はお姉さまとたくさん遊べたのに!」
「とは言っても、もう2年の後半だし、どのみち勉強三昧だったと思うよ」
「…お姉さまはやっぱりお家を継ぐの?」
「今のところはね」
「紗希乃お姉さまのお兄様も継いだんだもの、お姉さまは自由にしていいと思いますけど」
「でも、やりたいことないの。それに、お兄ちゃんは途中で楽な方選んだからさー」
「美容サプリメントでしたね。うちのママも贔屓にしてますよ」
「ありがとう。まあ、どのみち医療に携わる業界には行くからねえ。伊代ちゃんは看護師とかしないの?」
「伊代が看護師になってしまったら患者が男性だらけになりますもの」
「……そーね」
「あっ、ここ!最近の伊代のお気に入りのブランドですよ!ほらほら、お姉さまはやくー!」

わたしよりも背の高い伊代ちゃんに、肩をがっちり掴まれて、ぐいぐい引っ張られていく。逃げないから離してほしいって言っても聞かないんだろうな。そう思って引きずられるまま歩いていく。ディスプレイされた服を見てキラキラ顔を輝かせた伊代ちゃんは、きょろきょろ見渡して、その服の在庫を探しているようだった。


「高校に入ってから、お姉さまの服装がぐんと大人っぽくなったので伊代も真似しようと思ったんですよ」

にやにやしながら目当ての服を見つけたらしい伊代ちゃんが商品を制服越しに当てている。

「でもやめました!伊代に似合うのがもっと他にあると思って!」
「そうね、わたしはそんなタイトなスカート履けないや」

中学生から見た高校生なんて大人っぽく見えて当然だもの。制服のスカートは一気に短くなるし、女子中の女の子たちにとって合コンが待ってる高校生活はかなりバラ色に見えるだろう。

「そうだ、お姉さま。伊代、お姉さまとお揃いのものが欲しいんです!何かお揃いにしましょ!」
「いいよ、何がいいかなあ。」
「そうですねえ、伊代ブレスレットが欲しいです!お揃いでつけたい!」

あまりじゃらじゃらしたものは好きじゃないから、至ってシンプルなデザインのものだけどかわいいブレスレットがあったので二人でお揃いで買った。嬉しそうに付ける伊代ちゃんがかわいい。こっそりその様子を写メって、友人に送信した。伊代ちゃんを愛でているあの子はきっと発狂するに違いない。反応が楽しみだなー。



「うふふ、帰ったらママに見せびらかさなくちゃ!あと、お兄ちゃんにも!」
「そんなに嬉しかったの伊代ちゃん」

買い物をひとしきり楽しんだ後、二人でショップバックを持ちながら歩く。帰りの道中にもブレスレットを嬉しそうに撫でるものだから、思わずくすくす笑ってしまった。

「はい!だって、お姉さまとはずっと一緒だったのに1年離れてしまったし、みーんな先輩だからいつもどこかで離れてるんですもの。お兄ちゃんだってハル先輩だって伊代のこと置いてっちゃう」
「大丈夫だよ。伊代ちゃんは自分から行くんだ!」
「え、それってウザがられたりしません?」
「大丈夫、かわいいから」
「っ……ですよね!!」

これまでさんざん自分からぐいぐいきていたのに今更よ伊代ちゃん。もうすでにウザがられているけど、それは賢二くんにとって妹だからだし、吉田くんにとっては賢二くんの妹だからだよ…!

「でも伊代、身長はお姉さまくらいがよかったなあ。中途半端な高さだから伊代より小さい男がいっぱいいるんです」
「すらっとしててわたしは羨ましいけどね。まあ、でも確かに自分より小さい人って確かに嫌かも、せめて同じくらいとかね」
「そうです!紗希乃お姉さまはやっぱり昔から変わらないんですねえ。昔も大きい人がいいって言ってましたし」
「そんなこと言ったっけ?」
「言ってましたよー、『わたしより大きくない人なんて好きになんない!』って!」
「全く覚えがないんだけど…」
「そうですか?でも、確かに言ってましたよ、伊代覚えてますもの」
「そんなこと言ったかなあ」

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