僕らは秘密の鍵を入手した
1週間もしないで終わった任務の後の1週間は、結局何も起こらなかった。悠一の言う通りで、ちょっぴり悔しい。何も起きないのか。起きてほしいわけじゃないけどさ。あるとすれば分岐点だと奴は言ってたけど、その分岐点は訪れたのだろうか。
大学の友人と晩御飯を食べて、早めに帰ってきた。明日までのレポートがあるからそれをさっさと仕上げたいところ。本部へ向かい、警戒区域の前にある地下通路の扉に辿り着いた時だった。バッグの中でスマホが騒いでいる。一体誰だろう、と取り出したスマホの画面には悠一の名前が並んでいた。
「もしもし?」
『もしもし!あれ?今どこ?外?』
「うん、帰る途中」
『……遅くない?』
「いや、早いでしょ。これでも途中で出てきたんだよ。それより、どうしたの?」
『視てほしい所があるんだけど、どっか安全な場所いける?』
「いま本部通路の入口だから通路入ればいける」
トリガーを翳して開いた扉の音が聞こえたのか、悠一は外にいることに文句を言うのをやめた。それにしても、視てほしいところとは一体どこだろう。
『警戒区域にさ、一般人がいると思うんだ』
「……どの辺?」
『まだわかんないんだよね』
「いるってことはオペが気付いたんじゃないの?」
『いや、気付いてないよ』
どういうことなの、と疑問に思いつつも警戒区域をざっと視てみる。一般人…一般人……一般……人…?
『いた?』
「……ねえ、悠一。その一般人ってさ、」
オペが気付いてなくって。知らない一般人なのに警戒区域に来るのが分かってるって。それって、もしかしなくとも。
『メガネしてた?』
「やっぱり!」
あのもやもや見えるという人物が現れるかもしれない。そう思ったら、ソワソワしてしまう。
「まだ見つけれてないけど、今日なの?」
『だいぶ高い確率で今日。少し前の見通しだともっと早かったけど』
「もしかしてこないだのやつってメガネくんのことだったの」
『そうそう』
「ん〜。トリオン高めの人物反応はないな……悠一いま防衛任務中でしょ、反対にいるのは嵐山隊?」
『そっち側にいられたら厄介だな』
「もしかしてメガネくんってトリオン少ない?」
『まだちゃんと会ったことないからわかんないよ』
「トリオン兵、今夜は少ないみたいだね」
『粗方片づけた後だよ』
「そう……」
もう一度集中して視てみるけれど、警戒区域内にいるのはなかなか見つけられない。……警戒区域の境目とか?だとしたら視えにくいところにまたいるもんだなあ。
「……あ、」
『いた?』
「誰かいる。後ろ姿だからメガネはわかんない。入り込みやすいとこ探してたけど、なかなか面倒なとこ突破して侵入してるよ」
入りにくいように有刺鉄線を引いてあるところもあれば、それが壊れてしまっているところもある。引けているところをわざわざ選んで侵入するわけないと思ってたけど、まさかのそこを破壊していたみたいだ。
「今、悠一が居るところから南東に500メートル先」
『南東ね』
「対象は…、あ、ゲート開いた」
実際に警戒区域にいるのだから私が言うよりも先にゲートが開いたことを悠一はわかってるだろう。『ありがと』とだけ言って通話が切れてしまった。それにしても、あの男の子は本当に分岐点となるメガネの人物であってたのかな。いつまでも通路にいたってしょうがない。のろのろと歩きつつ、悠一のあたりを視つづけた。あ、バムスターだったか。……バムスターに乗りかかる形でとどめを刺した悠一が見下ろしている男の子は確かにメガネをかけていた。この子が、今後のボーダーを左右する男の子……。悠一がこれからどうするつもりなのかはわからないけど、ひとまずやらねばならないことは今別の場所を防衛してる嵐山隊にばれないようにすることと、それから……。タイミングよくスマホが振動して、画面に現れた名前は当然悠一の名前だった。
『ねえ、紗希乃』
「本部の中を視ろって言うんでしょ〜」
『ご明察〜。オレが視たところ危なくはないんだけど、何が起こるかわかんないからね』
「うん、わかってる。本部で一旦保護するんでしょ」
『その体でいくつもり』
「……その体って」
『どうなるかはこれからのお楽しみだよ、紗希乃』
僕らは秘密の鍵を入手した
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