30万打リクエスト小説

青年淑女の極秘作戦会議



これのスリザリン側です。洋名変換推奨

「ハンプシャー、マルフォイ家別邸」

フルーパウダーを投げ入れた暖炉へはっきりと呟いて足を踏み入れれば、目の前の景色がぐるぐると渦巻いていく。視界が開けると共に目にはいったのはソファに座って項垂れているドラコとセオドールの姿だった。

「呼び出しておいて挨拶も無いなんて随分じゃないかしら」
「やあ、パンジー今日も素敵だね。まるで愛らしい犬みたいだよ」
「セオドール。どうやらあなた燃やされたいみたいね」
「冗談だよ」

怖い怖いとわざとらしく肩を竦めてから、セオドールは近くにいたしもべ妖精に何か言付けていた。テーブルを挟んで向かい側でだらしなく座っていたドラコが座りなおしながらテーブルの上を片付け始める。テーブルの上には既に空になったワインの瓶が数本転がっていた。片づけると言っても端に寄せて、しもべ妖精に持って行かせるだけ。

「わざわざ来てくれてすまない、パーキンソン」
「こんな真昼間から飲んでるの?」
「飲まないとやってられないんだこっちは」
「紗希乃は?」
「仕事。それから、グレンジャーの手伝いで出かけているよ」
「ああ、あのしもべ妖精の解放運動ね。あの子ったら本気で解放運動に参加するつもりなのかしら」
「あくまで手伝いなだけで解放運動に賛同してるわけじゃないらしい」
「ふうん。意味わかんないわね。手伝いだって何だって手を貸したら賛同してるのと何にも変わらないわ」

ダフネから託された、パイやキッシュの入った籠をしもべ妖精に託すと、大きな目玉をくっつけた彼らはキイキイ奇妙なお礼を述べてから去っていく。……あの子とドラコが交際し始めてからここのしもべ妖精たちも随分小綺麗になったものね。前はぼろ雑巾のような粗末な布を身に着けていたけれど。

「どうせ碌な話じゃないからってダフネは欠席よ。分かった上で来てあげたのをとっても感謝してくれる?」
「君は歳を重ねるごとに辛辣になっていくな」

そりゃあ、恋は盲目という言葉があるくらいだもの。学生時代はドラコの何を見てもすべて味方として接していた。決定打になるような大きなきっかけがあったわけじゃないけれど、今じゃ彼が私の中の1番ではなくなっただけ。セオドールに関しては元のままと変わりない。セオドールの横に乱雑に重ねてある羊皮紙の山にむけて杖をひと振り。テーブルの上にそれらを重ね直してから代わりに私がそこへと腰掛けた。

「聖マンゴの院長夫妻に、婦長、副婦長……これって、貴方と紗希乃の結婚パーティの招待客の名前じゃない」

羊皮紙に書き連ねられている名前をざっと流し見ただけでもかなりの人数が記されていた。ふうん、最初が新郎側で後ろが新婦側ね。屋敷しもべ妖精転勤室の室長夫妻に、自分の名前とダフネ。それから、紗希乃のペンフレンドに……

「その顔になるってことは君も奴さんを見つけたらしい!」
「ええ。ええ、見つけましたとも。まさかとは思うけどこれが原因で真昼間から飲んだくれているわけじゃないわよね」
「そのまさかさ。ドラコを見てご覧、ずっと黙って項垂れてる!」

ワインの酔いが回っているのか、ほんのり赤い顔をしているドラコが腕を組みながらセオドールの言う通りに項垂れている。ダフネの予想通りに碌な話じゃなかったわけね。私達を呼び出す原因となった名前が2人分綺麗に並んでいる。嫌でも目に残る、グリフィンドールの目立ちたがり屋たち。

「馬鹿らしい!」
「そういう君だってウィーズリーたちは好ましくないだろ!」
「当り前よ。私だって楽しくお付き合いしてあげるつもりは微塵もないわ。だけどね、あの子が招待するって言うんだったら別に何も言わないわよ」
「……」
「……」
「なによそんな二人して蛆虫でも沸いたような顔して」
「君なら真っ先にそれを燃やしてくれると思っていたのに」
「最初から貴方を燃やしておくべきだったわね、セオドール!」
「待て待て!冗談だ!」
「冗談なわけないでしょう!冗談だったら私を呼ぶわけないもの!」

杖を取り出せば、慌てたセオドールも杖を取り出した。ドラコなんて空を仰いでいる。本当に馬鹿。勉強ができるくせして馬鹿なんだから。ポン、と音を立てて現れた新しいワインのボトルをドラコが取る前に奪ってやった。この飲んだくれ共は一回正気にさせなくちゃ。水をたっぷり持ってくるようにしもべ妖精に言いつけると、二人してじっとりと私を見てからため息を吐いた。

「そんなに嫌なら最初に断ればよかったじゃないの」
「断れたら最初からしてるに決まってるだろ」
「招待だけして辞退するかと思えば、ウィーズリーのやつ参加するっていうんだ」
「僕は仕事のおかげで向こうの結婚パーティーへ参加せずに済んだが、悪戯グッズ売りの向こうは断りもできないんだ」
「ああ、そういえば。ウィーズリーたちの結婚パーティーに招待されたって紗希乃が言ってたわね」

まさかグレンジャーと一緒の年に結婚することになるとは思わなかったと笑っている紗希乃を思い出す。そうね、あの子は招待されて喜んでいたけど、グリフィンドールだらけの中に一人で参加する度胸があるのがすごい。私だったら絶対に行きたくないもの。

「グリフィンドールの中に飛び込む彼女の気がしれないよ」
「面と向かって争っていたわけじゃないから平気だと言っていた」
「そういう割り切り方ができるって強かだよな、本当に……」
「でも、最初はドラコも参加するつもりだったんでしょう?」
「そうなのか?」
「……いや、仕事があったからそういうつもりじゃない」
「嘘ついても無駄よ。紗希乃からちゃんと聞いてるもの。ギリギリまで仕事の調整してくれて、紗希乃に付き添ってあげようとしてたって」
「へえ、初耳だ。どうなんだ、ドラコ」
「だからそういうつもりなんかじゃない」
「あらそう。紗希乃、とっても喜んでいたけど」
「………」
「無理をさせたいわけじゃないけど、歩み寄ってくれたって嬉しそうだったわね」
「…………そりゃ、できる限り希望を汲んでやりたいに決まってる」

だったらもう答えは出ているじゃない。本当になんのために私は呼ばれたんだか。ダフネのように誰かに押し付けて、ショッピングにでも行っておけばよかった。嫌がったところでどうにも変わらないことはドラコもきっとわかってたはず。まあでも、パーティーが始まったらウィーズリーたちは嫌でも悪目立ちしてしまうし、紗希乃もそれを理解できていないわけじゃないはず。誘わずにいるのが一番手っ取り早くて悩む必要もないのだけど。

「ウィーズリーが悪戯グッズの販売に精を出してくれてたら、きっとグレンジャーだけだったんでしょうね」
「だったら屋敷しもべ妖精転勤室の室長の近くにでも置いておけばしもべ妖精のことで大盛り上がりだろうさ」
「彼女が来てほしいのはグレンジャーだけだろうしね」
「パーティーの当日だけでもいいからウィーズリーの悪戯グッズ店が繁盛でもして人手不足になればいいのにな」
「生憎あの手の仕事は代わりを用意しやすい。それならいっそ、奴らの悪戯グッズがいかに尊くて我ら魔法族になくてはならない存在だと思い込ませる魔法を編み出す方が手っ取り早いかもしれないぞ、ドラコ。そうすれば仕事が忙しいって理由でウィーズリーも堂々と仕事を優先させるだろうさ!」
「やっぱり馬鹿よ、貴方たち」

あいつらと私たちが仲良くできるわけがないことはわかってる。敵と変わらないのに、わざわざウィーズリーが同伴で来るなんて理由はきっとドラコとおなじ。向こうも向こうで愛する妻の望みを叶えてやりたいってところでしょう。ああもう、本当に何をしに来たのかしら。私もはやく良い人を見つけなくちゃ。

「ところで、ドラコ達の結婚パーティーにどうしてセオドールがそんなに口出ししているの?」
「だってドラコの奴、僕たちの席とウィーズリー夫妻の席を同じテーブルにひと纏めにしようとしてるんだぜ」
「ちょっと!私、参加するのは目を瞑ると言ったけどそんなの嫌よ!隣りになんてしてみなさい!」
「頼むから僕の大事な記念の日を燃やさないでくれ……」

格式張ったものから立食形式の開放的なパーティーに変更できるよう父上に相談しているところだ、とドラコがため息交じりに言う。マルフォイ家は伝統があるから式もお披露目もすべてやり方が決まっているんだろう。それでも、流石にやっていいことといけないことがあると思うの。私だって昔よりかは大人になって、譲歩も覚えて、我慢できるようになったけれど、どうしても相容れないものってあるわ。実際隣りになったとして、本気で喧嘩なんてするつもりはないけれど、向こうがそうだとも限らないわけで。……まあ、向こうも大人になっていると願いたいわね。大事な友人の大事な日を、大切な思い出として祝わせてほしいのも正直なところ。ワインがなくなって、仕方なしに水をグラスにたっぷり注いで勢いよく飲んだ二人は揃って溜息をついた。

「しょうがないこともあるわよ」
「そうやって君も紗希乃も大人になりきったふりをする……」

拗ねたようにドラコは呟く。なりきってやしないけど、少なくとも貴方たちよりかは大人かもしれないわね。それを言ったらもっと拗ねてしまって紗希乃のご機嫌取りが大変になってしまうだろうから、そっと心の中に仕舞っておこう。それでも、パーティー当日は昔のことを水に流したように振る舞わなければならないと思えば何だかちょっぴりむしゃくしゃするわ。……飲んだ方がすっきりするかもね。手元に置いていたワインに向けて杖をひと振り。「やっぱり君も僕らと同じじゃないか」うるさいわね、そんなに燃やされたいのかしら。


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