30万打リクエスト小説

オープン・シークレットA



「はあ?!吉川が迫られてる?誰に?アイツか!」

1人でコント染みた叫びを上げる身にもなって欲しい。外での仕事を終えて帰庁していたところ、内勤中の同僚からかかってきた連絡に思わず声が大きくなる。気をつけろって言っただろうが!降谷さんにバレたらどうするんだ!

「その話、詳細を報告しろ」
「ふ、降谷さん……!」

時すでに遅し。鬼はもうそこにいた。すまない、ただ、俺はもう警告はしていたはずだ。それを理解せずに踏み切ったアイツが悪い。電話で聞いた話の流れを降谷さんに報告すれば地鳴りの音が聞こえてきた気がする。幻聴か、幻聴だな。大体既婚者相手に公衆の面前で堂々と……そういえば、

「降谷さん、そういえば貴方たちが夫婦だと言うことを伝えていなかったかもしれ、ってもういない?!」

*

「降谷警視正……つ、妻……?」
「ああ、その子は俺の妻だ」
「いやでも吉川って」
「同じ職場に降谷が二人いたら仕事しにくいでしょ?」
「え、えええ〜」

イスに座っていた新人くんの肩を掴んで、引き離すように引っ張った零さんは、ニンマリ笑って彼の顔を覗き込んでいた。ダメダメそれきっとバーボン!黒いオーラを放っている様に恐れおののく。いや、ちょっとキュンときたとか言わない。言えないよ新人くん怯えてるし。息を切らした風見さんが遅れてやってくる。遅いですよ一体何やってんですか!とジェスチャーで抗議すると、呆れたようにパタパタと手を振って降参ポーズをするだけだった。

「仕事中に声をかけたのは目を瞑ろう。ただし、公安として見過ごせない点があるな?」

あっ、これお説教パターンくるやつ。逃げようと立ち上がったところを無理やり押しとどめてきたのは風見さんだった。なんで!味方じゃないの!

「一緒に怒られとかないと後にひくだろうが」

なんか私よりも私と零さんのこと知ってないかな、風見さん……。それからというもの、口説くにしろ何にしろ情報不足で挑むことの浅はかさと短絡的な考えでは公安が務まらないという最もな指導を受け、その指導不足だとさらに説かれました。情報を武器とする我々において彼の動きは確かにザルもいいところで詰めの甘さは目立ったけれど、そもそも結婚してたことを伝えた覚えはないかもしれない。皆知っているし、あえて公開する内容でもないから既婚者か独身かって話もしてなかった気がする。まあ、それでも情報を集めろっていうのが零さんの言い分なんだけど。

「お前もハッキリ断ってやるんだよ、ばか」

ぽすん、と頭に振ってきた手がわしゃわしゃと髪をかき回す。その様子を見ていた彼は豆鉄砲でも喰らったような顔をしていた。あー、なんか。どんな説教よりも貴方の腕一本が効いたみたいですよ零さん。後々に育ってきた新人くんが「あの時の俺はどうにかしてた」だの「黒歴史です」と真顔で言うようになるのはそう遠くないのであった。何なのその言い草は!

→あとがき

back→(後書き)
- ナノ -