30万打リクエスト小説

サマー・パレットB



荷物はわたしが見てるから行っておいで、と子供たちを送り出した。浜辺をかけてくみんなは楽しそうに駆けて行く。「後で絶対に交代するからね!」と意気込んでいた歩美ちゃんに癒されつつ、パラソルの下に敷いたビニールシートの上に座っている。人の多いビーチは確かに騒がしいけれど、波の打ち寄せる音がそれすらも心地よく中和してくれていた。普段のキリキリと頭を使う仕事から離れているこの空間がとっても不思議でしょうがない。ぼうっと海を眺めているだけなのに、心が落ち着いていく。ああ、そうだ降谷さんに場所を伝えなくちゃ。わたしのサイズよりもおおきなパーカーのポケットを探ってスマホと取り出していると、パラソルの側に見慣れぬ足が現れた。ひとり、ふたり、さんにん。

「お姉さん、一人ぃ?」

日焼けしててらてらと真っ黒な肌を見せびらかすようにして見知らぬ男たちが現れた。降谷さんって一見チャラそうに見えないこともないけれど、上品な方だったんだななんて場違いなことを考える。浅黒い肌はこんなに下品に見せびらかすことはないし、柔らかい色素の薄い髪はこんなにギシギシ傷んでない。…パーカーを脱いだ降谷さんの身体かっこよかったな。もっとちゃんと見たかった。

「ねー聞いてんの?」
「聞いてません」
「聞いてんじゃん〜ねえねえ、俺らと遊ばない?」
「遊びません」
「見た感じずっと一人だけどもしかして忘れられてんじゃない?」
「知りません」

寄るな、シートに乗るな。伸びてきた手をやんわりと追い払う。怒らせるのは厄介だけど、ポジティブなのも考え物だ。興味がないことを伝え続けても通じない。ポジティブっていうよりも理解能力に乏しいのかな。これはコミュニケーション能力の問題だったのかもしれない。だったら、はっきり言っちゃおうか。

「わたしは見ず知らずの人とせっかくの休みを共有するつもりはこれっぽっちもありません」
「じゃあ今知り合いになろうよ〜」
「いやです」
「厳しい〜!いいじゃん、ちょっとくらい」

正当防衛ってことで少し痛い目見てもらう?なんて頭によぎったその時、ビニールシートに乗りこんできていた3人のうちのTシャツを着た一人が突然飛んで行った。え?飛ん…えっ、

「僕でよければお時間用意しますよ。そうですねぇ、"ちょっとくらい"でもいい準備運動になりそうだ」
「なっ、なんなんだ?!」
「ここまで女性にハッキリ断られても食いつけるなんて能天気で羨ましい限りで」

「指一本でも触れたらどうなるか、ここまで来たら流石にわかるよな?」

残っていた男たちが砂に足をとられつつも走って逃げていく。ハァァ、と長い溜息をついて降谷さんがパラソルの下に入ってくる。隣りにどかりと座るその姿は不機嫌さが丸出しだった。

「あんな奴らさっさとなぎ倒せ」
「過剰防衛になるのも考え物だと思って」
「3対1だぞ、馬鹿」
「だってあんなヒョロヒョロな人たちに何ができるって言うんです」

普段は服の下に隠れている二の腕をぺたぺたと触る。さっきの男たちとは比べものにならないほど鍛えられていてきれい。降谷さんはやっぱりきれいだなあ。

「吉川の方がきれいだよ」
「っ?!」
「がっつり声に出てたぞ」

急に気恥ずかしくなって、羽織っていただけの降谷さんのパーカーのジッパーを急いであげる。

「はあ?!なんで着るんだ」
「いや、ちょっとですね…!」
「ホォー…あいつらには見せてたのに俺はダメだって?」
「だだだってきれいとか言うから」
「先に言ったのはお前の方だろ」
「あれは心の声が!」

もはや意地だった。ジッパーをとどめようとするわたしと下げようとする降谷さんの攻防を一瞬で止めたのはすっかり忘れてた彼らだった。

「ほっほーう、これはこれはアダルトですねコナンくん!」
「いやアダルトっつーか逆に子供っつーか」
「安室の兄ちゃんもダイタンだな!」
「歩美、蘭お姉さんと園子お姉さんも呼んでくる!」

海で直接合流したコナンくんがスマホを置きに戻って来たのに子供たちがついて来てたらしい。まって、歩美ちゃん。呼んじゃいけないって!絶対伝達ミスが起きるって!だって歩美ちゃんめちゃくちゃ興奮してるもん、ねえ待ってー!!

「絶対からかわれる…!」
「一緒に来てる時点で諦めとけばよかったんだよ」
「うるさいですよっ」


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