蒼の双眸(FGO×DC)

A


安室透、あむろとおる、アムロトオル……。ダメだ、さっぱり思い当たる覚えがない。母さんに直接聞くのが早いと思うけど、いい策じゃなさそうだった。直接聞いたらどうだろう?とエミヤの作った晩御飯を食べながら、イシュタルとナーサリーに尋ねてみたら、二人は顔を見合わせるだけ。ナーサリーはくすくす笑って、ご飯を目当てにやって来ていたイシュタルは笑いを堪えるのを我慢するように食事をかきこんだ。

「ハンコがひとつじゃ、足りないわ!」
「ええそうね。それに、直接聞いてもいいけれど、たぶんどうにもならないんじゃない?」
「どうにもならないって?」
「だってあの男は――」
「ゴホン。紅茶のおかわりはいかがかね」

ずいっと目の前に差し出されたティーポット。すこし機嫌の悪そうなエミヤがエプロンをしたままそこに立っていた。じろり、と音が出そうなくらいイシュタルを睨みつけたもんだからイシュタルがぎょっとしている。

「マスター。母君に直接尋ねるよりも、君がその男の人となりを調べてからでも遅くないと思うがね」
「うーん。すぐに会わせるのってやっぱりダメかな」
「数年越しに再会した男女が元の鞘にすんなり収まるわけがない。特に、現状君と言ういわばコブ付きでどうなるかなんて深く考えるまでもないだろう」
「コブって言っても本当の父親かもしれないしなぁ」
「確信は?」
「ない!なんとなく!」


*

人となりを調べる、となったら周りの人に聞くのが手っ取り早い。…んだけどさあ…

「安室のお兄さん?えっとねー、いつもニコニコ笑ってるイケメンさんだよ!」
「そうですねえ、安室さんの作るハムサンドがおススメです!」
「うな重のインパクトには負けるけどよ、安室の兄ちゃんの作るケーキは最高だぜ!」

へーハムサンドねー。それ以外は昨日見たまんまだなあ。確かにケーキは美味しかった。探偵団の三人に聞いてもあんまり有力な情報は手に入らなさそうだ。コナンくんとかに聞いた方が良さそうかもしれないな。

「立香くん、もうひとつありますよ!」
「へ?」
「安室さんは探偵で、ポアロの上の毛利探偵の弟子なんです!」

やっぱり、彼に聞くのが一番早いのかもしれない。探偵団のみんなにお礼を言って、コナンくんを探しに行くことにした。今日は一緒に帰らないという彼らを見送って、図書室に行ったというコナンくんを追いかける。とびらはしずかにあけましょう、と書かれた図書室の扉を勢いよく開いてしまって、中にいた先生にちょっとだけ怒られた。ごめんなさい、と謝ってコナンくんを急いで探す。彼がいるとしたらどの辺だろう。シャーロキアンだと言ってたっけ。だったら、ミステリーの棚かな。……いない。他のところかな。となりの棚の通路を覗いても、いない。こっちも、そっちもだ。残るは端の童話のコーナーだけ。こんなとこにいるのかな。いつもの聡明な様子を思い浮かべてみたら、彼と童話があんまり結びつかない。ゆっくりと、童話コーナーの方を覗き込んでみた。夕陽に照らされた窓辺で本を手にする彼の姿がすぐそこにあった。

「……コナンくん?」
「藤丸?!」

驚かせてしまったらしく、急に大声をあげてしまったコナンくんを注意しに先生がやってきてしまった。二人並んで先生の小言を聞いて頭を下げる。オレに至っては本日2回目なのでちくちくと叱られてしまった。先生が去ったのを確認して、コナンくんを窓辺に引っ張っていく。二人でしゃがみこんで、窓から差し込む夕陽の作った影の中に小さく並んで座った。悪いことを企てているわけじゃないけど、何となく大っぴらに聞けなくて、こそこそと彼に尋ねてみた。

「コナンくんは、安室さんがどんな人なのか知ってる?」
「……どうしてそんなこと気になるんだ?」
「どうしてって……」
「不思議だったんだ。いつのも藤丸なら当り障りなく接してそうなのに、自分から安室さんに話しかけに行くなんてさ」
「うん。確かにそうだ。不思議がられてもおかしくないかも」
「別にあの人の情報を隠したいわけじゃないけど、その理由を教えてくれるって言うなら考えなくもないぜ」
「理由、理由かー…」

サーヴァントたちはオレが安室さんを気にかけている理由を知ってる。確かに他の人からすれば不思議に思われても仕方ないよな。どうやらオレの父親っぽいんだよね、って言って驚かせるのもちょっとなあ。

「恩返ししたい人がいるんだ」
「恩返し?」
「そう。その人にもらったものを全て同じようには返せないから、その人が喜んでくれそうなことを探しててさ。それの…そうだな、きっかけを作ってくれそうなのが安室さんだと思ってさ」
「たとえば、安室さんが藤丸の期待外れだったらどうするつもりだ?」
「うーん。どうなんだろ。ただ、悪い人じゃないと思うんだ。求めてた結果にならなくてもマイナスにはならないんじゃないかな」

安室さんが悪い人だったとしたら、うちの過保護な英霊たちはあの人に近づかないように厳重に厳重に対処すると思う。ということは、少なくとも安室さんは悪い人ではない。それに、すぐにとは言わずにいつか母さんに会わせるという目標を見守ってくれているのだから、縁が完全に切れてしまったわけじゃないはず。

「それで、教えてくれるかなぁ。安室透って人は、どんな人なんだろう」

手にしていた本を持ち直して、コナンくんはフッと笑った。持っていたのはマザーグース。茶色い表紙のその本は、英語の唄が詰まってる。

「安室透という人は……」


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