蒼の双眸(FGO×DC)

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ひとりでも産んで育てて見せると意気込んだのは、半ば意地のようなものだった。だって、彼の連絡先はもうわからないし、見つけたところで認知してくれるかもわからない。興信所を使って彼を探すお金があるなら少しでもこの子のために溜めなくては。そんな感じで決意と言うにはどこか脆くって、きっと彼が寄りを戻そうと現れたのなら、ちょっとだけ悩む素振りをしてから深く頷いてしまうのだろう。

そう、確かに思っていた。

*


「またあなたと立香くんですか藤丸さん!」
「大変お世話になっております……」

恰幅の良い刑事さんが呆れた声で私たちを呼んでいる。パトカーに乗せてくれるらしく、案内された後部座席に遠慮なくお邪魔させていただくことにした。胸に抱きかかえた息子は、しょんぼりと頭を垂れて落ち込んでいる。初めこそパトカーを目にして綺麗なふたつの蒼を輝かせていたけれど、今となってはこの有様。年相応に泣いてごねてくれたら安心できるけど、大人のような落ち込み方を見せる息子に本当に不思議な子だと思わざるを得ない。

「今月で何回目ですか?!」
「ええと、刑事さんにお世話になったのは3回……」
「他には!」
「なんとかなったのが2回ほど、かな」
「あなた方はどれだけ巻き込まれたら気が済むんですか!」
「はは、そうは言われても……」

立香が1歳を迎えた辺りから少しずつ不思議なことが起こり始めた。さっきまで歩いていたところに車が突っ込んでくることから始まって、全く関係のない殺人事件の容疑者にでっち上げられたり、事件の目撃者になったりとこれまで私と縁のなかった出来事が次々と起きる。お祓い行った方がいいのかなあ、と呟いた私の声を拾った息子が全力で首を左右に振った。お祓いなんて言葉覚えてるなんてうちの子賢いね?どこで知ったんだか…。そんなテレビ番組見せたっけ。スマホの動画だってそんな見せてないしなあ。

「巻き込まれている回数が増えてるのも気になりますが規模が大きくなってるのも気に掛かりますな」

刑事さんの言葉にぎくりとする。まさにそれを私も気にしていたところだった。これがこのままエスカレートしていったら?私だけじゃ守れないところまで大きなことに巻き込まれたらどうする?そして、この生活はいつまで続くのだろう。こんな調子でこの子は大きくなって学校に通ったりできるんだろうか。いじめられたりしないだろうか。この子は、

「……さん、藤丸さん!」
「あっ、ハイ!すみませんぼーっとしてました」
「警視庁に到着しました。取調室の用意ができるまでロビーで座ってお待ちください。すこし話を聞くだけですからそんなにお時間は頂かないつもりです」
「わかりました。息子と待ってますね」

ロビーのベンチに座って、立香をとなりに座らせた。まだしょんぼり俯いている小さな頭をゆっくり撫でてやる。大丈夫だよ、と声をかけたら泣きそうな顔をゆっくりと上げた。

「おいで」

しぶる立香を抱き上げて、膝の上に向かい合って座らせた。それから、お腹に脇に背中に首。至る所をくすぐってやれば一発だった。こちょこちょ万能だわー。我慢できないくらい笑って身を捩る姿を見てほっと一息つく。

「か、かーしゃん…!」
「なーに、立香」
「ごめんね…?」

まるで自分が原因だと知ってるように、迷惑をかけてしまっていると思ってるみたいな謝り方。それを見て、朧げに引っかかっている記憶を思い出す。私の子が原因で辛い目に合うかもしれないという予言のような言葉。誰が言ったのかも思い出せないし、いつどこで言われたのかも思い出せない。本当に予言の通りにこの子に何かあるのかもしれない。この子を産まなければ巻き込まれることはなかったのかもしれない。……それでも、

「ふふ、何の事かなあ」

きっと私はこの蒼を諦めきれない。私を見上げる小さな小さな我が子を見て、そんなことを思った。


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