蒼の双眸(FGO×DC)

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すんなり離脱した灰原さんを見送って、ポアロという喫茶店へとやって来た。この店舗の二階には大きな文字で『毛利探偵事務所』と書いてある。また探偵かー、なんて思ってたら、どうやらコナンくんはそこに居候しているらしい。

「みんな、いらっしゃい」
「梓おねーさん、こんにちは!今日は安室さんいないの?」
「今買い出しに行ってる所なの。生クリームの在庫が足りなくって」
「ええっ、クリームが足りないんですか?」
「そうなの。思ったよりもケーキが出ちゃって〜」
「まさかケーキもう出せないとか言わねーよな?!」
「それは大丈夫!スポンジは安室さんが追加で作ってくれたし、クリームは買い足しに行ってくれてるから」
「やったあ!よかったね、立香くん。安室さんのケーキとっても美味しいんだよ」
「そういえば立香くんは甘い物平気でしたか?僕たち、そのケーキが食べたくてポアロにしたんですけど…」
「うん、甘い物好きだよ。ケーキは母さんがよく作ってくれるから特に好きなんだ」
「すごーい!立香くんのお母さん、お料理上手なんだね」

母さんがどんな料理を作るのかと探偵団のみんなに質問されて、思い当たる料理をひとつずつ並べていく。指折り数えつつ呟いた料理の名前に彼らはきょとんとしていた。あ、そうか。サーヴァントのみんなにリクエストされたものを作るから、普通の日本の食卓に並ばないものも多かったっけ。

「なんか藤丸の家ってグローバルだな」
「あ、わかるんだコナンくん」
「うん。中東の伝統料理とか西洋でよく食べられている料理とか色々あったけど、お前の母さん料理好きなんだな」
「そうそうー、世界の料理とか料理本よく見て作ってるよ」

店員のお姉さんが出してくれたオレンジジュースを飲みながら、「立香くんのお母さんすごいね!」とめいっぱい褒めてくれるみんなの声をひたすら聞いていく。大好きな人のことを褒められて嬉しくないはずがなかった。そうでしょ、オレの母さんはとっても優しくて、素敵で、頑張り屋さんで……

「ただいま戻りました。…やあ、みんないらっしゃい。おや。今日はいつも見ない子がいるね、お友だちかな」

カランカラン、とドアが開いた音と共に現れた人。焼けたように黒い肌。優し気に微笑む整った顔。それから――……

「……君は、」

蒼い瞳。鏡の中でしか目にしたことのなかったそれ。ジュースのグラスが汗をかいて両手を濡らしていく。ドッドッと早鐘を打つようにオレの鼓動が騒ぎ出す。

『母さん、父さんってどんな人?』
『正義感が強くてねー、負けず嫌いでねー』
『見た目は?』
『立香みたいに綺麗な蒼い瞳をしてるよ』
『それは何度も聞いたよ。他にないの?』
『そうだなあ。立香は私に似て黒めの髪だけど、あの人は贔屓目抜きにしてもとても綺麗な髪だったよ』
『ええー?色で教えてよー』
『ふふ。それは、また機会があったらね……』

とても綺麗な、髪。窓から差し込む光できらきら輝く明るい髪の毛を持つその人は、近くのスーパーの袋を手にしたままその場に立ち尽くしていた。

「安室さん?安室さん、どうしました?」
「えっ、」
「えっじゃないですよ。買い物ありがとうございました。受け取りますから、少し休んでてください」
「いえいえ。すぐにクリーム作りますよ」

カウンターに入って行くその人を眺めていたら、ランドセルに入れていたスマホが大きな音を立てて鳴り出した。すぐに出ようにもランドセルの奥底に入っていてなかなか取り出せない。

「わっ、ごめん電話だ!」
「ランドセルじゃなくてポケットにいれとけよなー」
「いいじゃないですか元太くん。落とす心配もなくて安心ですよ」
「そりゃそーだけどよ」

あまりに慌てていたもんだから、発信名も見ずに通話ボタンをタップしてしまった。耳に当てて、聞こえてきた可愛らしい声に、忙しなく動いていた心臓がすこし落ち着きを取り戻した。

『ふふ、こんにちは。マスター』
「びっくりしたー。どうしたの、電話なんて珍しいね、ナーサリー」
『でしょう?本当は見に行きたかったけれど、それはまた別の機会があるそうよ』
「……見に……?」
『ええ。そんなことより、』

くすくすと、鈴を転がしたかのような声がスマホ越しに響いてくる。ふと視線を感じて横を向けば、コナンくんが神妙な顔をして何やら考え事をしているようだった。どうしたんだろ。そんな余所見をしていたら、ねえマスターと呼びかけられた。

『とっておきのプレゼント、見つけてくれた?』

……ああ、そうか。そうだったんだ。

「ねえ、ハンコってさ、どれくらい溜めなくちゃならないかな」
『それはマスターの頑張り次第だってみんな言ってるわ』
「みんな…ふーん、みんな知ってたのかー」
『知っていても、あなたが望まなくちゃ意味ないの』
「そっか。たしかに、初めもそうだったもんな」
『さあマスター、おかあさまのハッピーエンドを探しましょう?』
「…そうだね」

通話を切って、スマホをポケットにしまった。それから勢いよく椅子から飛び降りて、目指すはクリームを泡立てているあの人の前。カウンターの椅子に飛び乗って、カウンターに身を乗り出した。男の人は手元をとめて、じっとオレを見返した。

「……」
「はじめまして!」
「……初めまして。君は少年探偵団の一員かい?」
「ううん。誘われてはいるけど、入ってないよ」
「そうか。道理で今まで見かけなかったわけだ」
「うん。ここに来たのも探偵団の皆と遊ぶのも今日がはじめてだよ」
「たまたま今日ここに来るなんてラッキーだったね。今日は作り立てのケーキがあるんだよ」
「偶然なんかじゃないかもしれないけど」
「……君、」
「オレは帝丹小学校1年B組藤丸立香!」

驚きに染まるふたつの蒼。できることなら、これがきらきら輝くところを見てみたい。それも、大好きな母さんのとなりで。

「お兄さんのお名前は?」
「僕の名前は――…」


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