蒼の双眸(FGO×DC)

B


「私たち、たくさんたくさんお願いしたの。もう一度彼に出会えるその日が来るまで、彼を守ってくれる人たちのところに生まれてほしいって!」

「何でも信じる人じゃいけないわ。すぐに騙されてしまうもの。脳みそが足りない人もいけないの。きっと守ってあげられない。その点、お父さまもお母さまも最高のカップルだったわ!守るっていうのはね、体を使って直接守ることだけじゃないのよ。勘がよくって頭のいいお父さま、心が広くって優しいお母さま。ふたりの血をひいたのならば、きっとマスターは自分のことを理解して危ないことから逃げる知恵をもてるはず。今まで直接彼を守ってきたのは紗希乃お母さまだったけれど、貴方の血の繋がりが巡り巡って彼を守っているのだわ」


*

「捜査に協力して頂き、誠に感謝申し上げます」
「御託はいい。さっさと済ませろ」

煌びやかな部屋に似つかわしくない、真っ黒いスーツの男たちがぞろぞろと大勢やってきた。アタッシュケースを持っている人もいれば、パソコンを持ち込んでいる人もいる。確かに、魔術師と呼ばれている人たちじゃなさそうだった。けれど、普通の警察だからと言って安堵できるものじゃない。

「大丈夫だよ、何も悪いようにはならないから」

ゆったりと紅茶を飲んでいるエルキドゥは立香にあげようと言っていた贈呈品のお菓子を開けて中身を見ていた。どうせ、これも調べられそうだからね。そう言って自分で包みを開ける。ソファに座るように促されたけれど、部屋中にスーツの男性がたくさんいる中で落ち着いて座ってられない。そんな中、一人の男性がやってきた。どうやら事情聴取が始まるらしい。

「誰から行く?僕?それともギル?」
「……藤丸さんからお願いしたい」
「私?」

驚いて、ギルガメッシュの顔を見た。相変わらずつまらなさそうな顔をしている。

「よい。手荒な真似だけはするなよ。後始末が面倒だ」
「面倒って貴方ね……!」
「行ってこい。貴様が話せることをそのまま話せばいい」
「いってらっしゃい、帰ってきたら新しくお茶を入れるよ」

*

写真の中で幼い息子と手を繋いで朗らかに笑っていた女性が目の前にいる。潜入捜査で物腰の柔らかい男性を演じている上司ではなく、素のあの人と付き合っていたという女性だ。捜査という名目に付け加えて興味が沸かないわけがない。調べ上げた経歴を読み上げても藤丸さんの表情はひとつも変わらない。

「……以上で間違いありませんね?」
「ええ」
「貴女がお住まいのマンションに加え都内にある4棟のマンションの管理人をしているようですが、所有しているのは家のあるマンションのみですか?」
「そうです。縁あってこちらで雇って頂いて、管理人の仕事を頂きました」
「…ちなみに、どのような経緯で入社を?」
「安全に住める場所を求めてた結果ですね」
「確かに、こちらへ入社される前に事情聴取などを頻繁に受けている経歴がありますが…」
「そうですね。今ではもうすっかり」
「入社直後から徐々になくなっているようですね」
「そうかもしれません。私の管理している物件は社宅なんです。元が女手ひとつで一人息子を育てていたものですから、今では支えてくれる人が多くて安心して暮らせています」

必要以上に話さないよう言いつけられているのか……それにしても落ち着きすぎている。特別揺さぶりをかけたいわけではないが、今のところこの聴取までの捜査で何の収穫もないところからすると、今回は無駄足に近い。であれば何かひとつでも情報を手に入れておきたい。この女性が降谷さんの元恋人だったとして、息子が実の息子ではない可能性もゼロじゃないんだ。DNA鑑定を行っていない今、推測でしか判断できていないのだから。

「失礼ですが、お子さんの父親は…」
「別れた後に身籠っているのに気が付きまして。その時にはもう連絡手段も途絶えていたのでそのままです」
「……認知してほしいとか、また会いたいとか、元恋人に何かありますでしょうか」
「どうして貴方が、」

はっ、と何かに気づいたらしい彼女は。大きな目を瞬かせている。それから、小さな声で「そういうことね、」と呟いた。降谷さんは6年前すでに警察官になっている。この人は降谷さんの職業をおそらく知っているだろう。所属までは知らなくても警察官だったと記憶している。だから、こちらの質問の意図を理解していて、困ったように笑っているのだ。

「元気にしてくれていたらそれでいいです」
「……本当に?」
「ええ。それと……」

独り言のように呟いた続きの言葉を彼女は懐かしむように零していった。

「後悔しないようにだけしていてほしいな」

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